第5話 おばあさんの鏃と聖剣タップファーカイト
私、そんな話をしていたら、思いついちゃったことがある。
「ということは、よ。
今も泉の底には、老夫婦に例えられたなにかがあるってことにならない?」
「さすがにそれは無理じゃないのか?」
「いいや、そんなことはないと思うよ、ケイディ。だってさ、魔族は水に近寄らないんでしょ?
死んだあとの散骨だから水に撒けるけど、生きている間は水に近寄らないんだから、潜水して確認したヤツもいないんでしょ?
なら、伝説ができたときから、そのまま泉の底は手つかずなんじゃない?」
しーん。
誰もなにも言わないな。
「元魔王、アンタはどう考えるのよ?」
私がそう聞くと、辺見くんは考え込んだ。
「勇者の言うとおりだとは思う。そして、今ほど水の中に入れ、泳ぎ潜れる多数の存在がこの地にいたこともないと思う。だから調べること自体は不可能ではないだろう。
だが、伝説は伝説、実際になにかがあるかはわからぬであろう。それに、あったとしても、泉の底で侵食はされているはず。長き間に水に削られて、痕跡を留めていないこともありうる」
「そうかなー。
案外残っているかもよ?」
武闘家の宇尾くんは、なにかが残っている方に与するんだね。
で、なんで?
なんで残っていると思うの?
「映画のオープニングで、波が岩に向けてざっぱーーんってのがあるだろ?
あの岩、犬吠埼にあって、今でも見られるそうだよ。あんな強い力で毎日波に叩かれていて、しかも沿岸だから海水には砂も混じっているよな。なのに、昭和の昔の岩がそのまま今もあるってことは、流れる泉の水程度の侵食だったら、1000年くらいは形を保っていても不思議はないんじゃないか?」
「……なるほど」
あ、元魔王が論破されたぞ。
「……それに」
えっ、今度は橙香。なにを思いついたんだろ?
「水の中では魔素は拡散しちゃうんでしょ?
でも、私たちは魔素のようでいて魔素ではないものも見ているわ。そういうものである可能性も考慮した方が良くない?」
「魔素のようで魔素ではないものってなに?」
私の問いに、橙香はたった一言で答えた。
「聖剣タップファーカイトよ」
と。
ああっ。
言われてみればそのとおり。聖剣タップファーカイトは、魔素のように掴み所がない。そしてあきらかに魔素ではない。でも、その力の制御は魔素を使う方法でもできる。
もしかしたら、聖剣タップファーカイトと同じようなものが沈んでいて、そこから魔素が滲み出てくるのであれば、ある話かも……。
「って、おおい、鏃ってさ?」
私、思わず裏返った声で聞いちゃったよ。
「……なるほど」
賢者がそううなずく。
「おばあさんが、枯れた泉の底で地面を突いたのは、聖剣タップファーカイトの2本目かもしれないのね。
自動車は走るのはガソリンでも制御は電気よね。同じように、聖剣タップファーカイトが斬るのは未知の力で、制御は魔素だとすると聖剣の力が続く限り、魔素も出続けているってことは言えるかもしれない。
それに、聖剣タップファーカイトほどのものが、世の中に1本しかないというのも、考えようによっては可怪しいかもしれない。これだけのものを作る技術体系があったとしたら、1本のみ作るという意味がわからないわ」
「それって、どういうこと?」
私は聞き返す。だって、一品物ってものもあるじゃない。
「職人がね、コレが最高のものって物を作るのはあるわよね。でも、それは質の問題なのよ。でもね、聖剣タップファーカイトの斬るってことは、質の問題じゃなくて機能なの。その機能を作れるなら、その機能を積んだ剣もいくらでも作れるはずなの」
よくわかんないけど、ざっくりとはわかった気がするなぁ。
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