第4話 怪談?
私、自分の疑問をぶつける。
「じゃあ、質問があるんですけど。『老夫婦が枯れた泉に捧げられると、水と魔素が戻った』ってのが話の主題だとすると、老夫妻の種族が明らかになっていないのも意味があるよね?
だって、ワイバーンやドラゴンの老夫婦だったら、家を取られたりしないよね?」
私の問いに、ケイディがうなずいた。
「そのとおりだと思う。老夫婦という言葉自体がすでに奇跡を示したものだ。桃太郎だって、桃から生まれたではなく、桃の力でじいさんとばあさんが若返ってハッスルして子供ができたっていうのが原型だ。
旧約聖書にも、極端な高齢出産の話がある。高齢の者がなにかを生み出すというのはそれ自体がすでに奇跡であり、生まれてきたものが常ならぬ者であるという暗示なんだ」
おおー、なるほど。
「だから、勇者の言うとおり、種族を特定すると奇跡が奇跡でなくなる。ドラゴンの仲間は極めて長寿だ。他の種族から見たら、老いて子を成すことになんの不思議もない」
ケイディがそう続けて、私は納得した。
「じゃあ、これ、泉の水に魔素が混じっていることについて、単に『奇跡だ』と言っているだけに過ぎないってことにならない?」
「いいや、1つ、そうとばかりは言えないことがある」
それはなによ、元魔王?
「高齢者が子を成した結果の産物ではなく、高齢者自身が死んだことによる奇跡という話であることだ。この話では、強いて言うなら魔素と泉の水が老夫婦の子ということになってしまう。つまり桃太郎で言えば、桃の力で若返った老夫婦が子供を作らず、自ら鬼退治に出かけてしまったようなものだ」
「……それでも問題はなさそうだよね?
鬼は退治できるじゃん」
「だがそうなると、桃太郎という子の力ではなく、桃の力が偉大だということになってしまう」
あ、そっか。
桃太郎が偉大で、桃はそのきっかけに過ぎないってのが桃太郎の話だ。そうでないと、今まで平和に暮らしてきた老夫婦が、桃食っただけでいきなり勇者になっちゃったことになるんだ。これだと桃はきっかけに過ぎないとは言えなくなるな。
「じゃあ、フランの話したこの話の場合……。
ちょっとグロいんですけど……」
「泉の底で今も眠っている、老夫婦の死体がダイレクトに魔素と水の元ってことになる」
ひょえひょえひょえ、元魔王、アンタ、怪談師の才能あるわ。マジで怖いです、この話。仄暗い水底の光景を、いろいろと想像しちゃう。
「なるほど。
そう解釈されるから、その老夫婦にあやかって散骨もされるんだなぁ」
橙香がそうつぶやき、私もなんとなくそれには納得した。
「つまり、死者をあの世に送るためではなく、魔素を絶やさないために散骨を始めたのが始まりだと?」
「そうだな。だからこの散骨の風習は、この辺りの村から外へ広まることがないんだろうな」
なるほどなぁ。
行為の本質が死者を弔っていない以上、嫌がられるのは当然かもしれないな。
あとがき
うーん、こうなると……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます