第3話 昔話の意味


 スライムの子、フランの昔話は続く。

 きっとこれ、私たちの世界の桃太郎みたいなもんなんだろうなぁ。

「そして、ついに甘い言葉で話しかけながらやってきた一団に、おじいさんとおばあさんはすべてを奪われてしまったのです。魔素切れのおじいさんはそれでも魔法を使おうとしたために死んでしまいました。

 悪いやつらは、死んだおじいさんをおばあさんとともに枯れた泉に放り込みました。おばあさんは、泉の水と魔素が再び湧いてくれていたらと嘆き、悲しみながら隠し持っていた鏃を泉の枯れた底に突き刺しました。すると、なんとそこからきれいな水が吹き出てきたのです」

 おおお、なるほど。


「泉からは、次から次へときれいな水が吹き出てきて、おじいさんとおばあさんを覆い隠しました。

 今でも、おじいさんとおばあさんは泉の底にいて、たくさんの水と魔素のみなもととなっているのです」

 フランはそう語って口を閉じた。


 ふーん。

 なんか、イイハナシダナーって感じにはならない話だな。それに、取られた家を取り戻したり、おじいさんが生き返ってめでたしめでたしとかならないんだな。

 なんか、こんな中途半端な話でいいのかなぁ。


 そんなことを思っていたら、どうやら橙香と宇尾くんも同じ感想を抱いたらしい。だってさ、「……なんか、投げっぱなしだなぁ」って橙香はつぶやいたし、視界の隅で宇尾くんもうなずいているのを発見したから。もちろん、私だって、うんうんとうなずいたよ。


 だけど、ケイディと賢者はすごく真剣な顔になっていた。

「一体全体、どういうこと?

 なんか、得ることがあったの?」

 私の質問に、賢者はちょっとためらったけど、話すことにしてくれたみたい。


「フランがいるからどうしようかとも思ったけど、フランももう大人になるスライムだからいいかな。

 まずね、こういう伝承話は基本的に投げっぱなしが基本。因果応報なんかない。例を上げれば、赤ずきんは狼に食べられたあと、復活なんかしない。それどころか、死に近づく儀式としてストリップしていたりする。狼に言われて、現世のものは死後の世界に持っていけないから、服も一枚一枚脱いでは暖炉にくべるのよ」

「つまり、注文の多い料理店ってこと?」

「そうね、そういうこと」

 うわぁ。


「じゃあ、桃太郎や浦島太郎も……」

「当然、原型は異なるわ。基本的に時代が下るにつれて、話はどんどんソフィスティケートされていくの」

 ひいいいい。

 怖いって。怖すぎるって。幼い頃から、私たち、ソフトになったお話とそのイメージに騙されていたってこと!?


「昔話には教訓が含まれている。残酷なのは、残酷でなければ教訓を与えられないからだ。子供向けだからこその残酷さなのだ」

 ……それはそうかもしれないけど。今の常識だったら、見せちゃいけないものにされて終わりだわ。


「フランの話から教訓を読み取るとすると、魔族同士であっても言葉は信用ならないということなのかもしれないな」

 ケイディの感想に、元魔王が口を開いた。

「教訓はそれだけではないぞ。

 魔法使いがおばあさんで、弓で鳥を獲るのがおじいさんでもよいではないか」

「そりゃそーだ。

 だけど、逆にしたら枯れた泉に放り込まれるところで無理が生じない?」

 賢者が聞くと、元魔王は大きくうなずいた。


「そのとおりだ。つまり、枯れた泉に放り込むことこそが、この話の主題ということになる。あとは枝葉なのだ。

 つまり、老夫婦が枯れた泉に捧げられると、水と魔素が戻った。大元の原型はそういう話だということだな」

 ……なるほど。

 そういうことだと、私も質問があるんですけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る