第17話 歩け歩け
「とりあえず勇者、お前はMREを食え。これからまだまだ道は続くし、深奥の魔界の魔族は単なる海の生き物より怖いぞ。知恵が回るし、魔法も使う。単なる巨体で物理攻撃してくる敵など、序の口に過ぎない。
どのような意味でも、自分から隙を作るな」
……ぐっ。
元魔王の言葉、正論すぎて反論できない。
「そうよ。待ち伏せしているところに踏み込んでしまうにしても、今のは罠とも言えない。だけど、知恵が回る敵は、もっときちんとした罠を張るわ。その罠に気がつくか、気がつかなかったら自力で食い破るか、そのどちらかができなければ全滅よ」
……うるさいやい、賢者。
言われなくても、そんなことはわかっているってば。
「とにもかくにも、余は魔素を節約せねばならぬ。次の魔法陣で跳躍できなければコトゆえ、もはや今日は魔法は使えぬ。賢者よ、あとは任せよう」
「わかった。だけど、深奥の魔界の魔族が出たら、さすがに私の魔法だけでは戦いきれないかもしれない」
「それはもう仕方ないだろう。その際には余も魔法を使う」
あー、もう、責任を感じちゃうな。
私のせいで、1日行程が延びてしまうかもしれないんだ。
考えてみたら、核爆弾の問題だけじゃない。日本に帰って学校に行く日も、1日延びることになっちゃうんだ。
まさか留年にはならないだろうけど、数学とか、ついて行けなくなるかもしれないよね。私、いろいろと覚悟を決めたよ。
「深奥の魔界の魔族が出たら、私が聖剣タップファーカイトを振るう。私が相手をやっつけるから……」
「まぁ、待て勇者。敵はただ殺せばいいというものではない。まず、寝返って味方になるなら歓迎だ。さらに我々にとって、敵の情報はまだまだ不足しているのが実情だ。まずは、聞き出せるなら聞き出す方が先だ。
勇者の聖剣タップファーカイトは、容赦がなさすぎて使い所が難しい」
……なんなんだよぅ、それ。
「じゃあ、私がなにもしていなかったように言うのはやめてよね。私、聖剣タップファーカイト抜きで戦うなんてこと、できないんだから」
「自分から罠に飛び込んでいくようなことさえしなければ、誰もなにも言わんよ」
ぐっ。
ケイディってば、またずいぶんと効果的に私の言葉を封じてくれるわね。
「とりあえず時間がない。さっさと歩け歩け。戦士と武闘家は、水分の補給を忘れるな。必要に応じて糖分も、だ。チョコレートは余分に持ってきている」
「……クリコとか大正とか、林永のが美味しいんだけどな」
武闘家がつぶやく。
んだんだ。日本のが美味しい。ケイディの国の軍仕様のチョコレートはイマイチなんだよね。
「日本製、あるぞ」
「えっ!?」
「軍仕様のチョコレートは、作戦行動中に溶けないために味が犠牲になっているが、ほら、ロボット犬は冷蔵庫積んでいるからな」
「……核爆弾と同梱かぁ」
橙香のつぶやきには、なんか複雑で切実なものがあった。だけど、なにをどう言いたいのか、本人にもよくわかっていないのだろうな。
「私もチョコ、食べたい」
「勇者は腰を抜かしていただけだろ。それよりまずは
宇尾くん、なによ、その言い方は?
まぁ、たしかにそうなんだけど……。
「……わかったわよ。次は聖剣タップファーカイトをきちんと振り回すから、チョコをくだせぇ」
「それ以前に、不用意に敵に近づかないようにっ!」
……ちきしょー。
憶えていろよ、賢者めぇ。
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