第18話 原住民?
私たち、再び歩き出した。
もう私、海には近づかない。絶対、近づかないぞ。
まぁ、白い砂の遠浅ビーチで、ビーチパラソルとトロピカル・ドリンクとピーチチェアがあったらちょっと考えちゃうけど。
大きな湾を巻いて歩くコースなので、砂浜に近づけないのは遠回りになるけどしかたがない。命の方がもったいないし。まぁ、それでもそういうところだから急斜面はないし、いくつかの渡河はありそうだけど踏破に困るような場所も見えないし、そこはありがたがらないといけないんだろうね。
「この湾をぐるっと回ってなんkmくらいかな?」
「10kmってとこでしょ」
賢者の答えに、私、少しがっかりする。
遠くに霞んで見えるあの岬の辺り、湾の凹みの始まりの向こう側、あそこまで歩いても今日歩く分の3分の1でしかないってことだ。しかたないと言えばしかたないんだけれど、あそこが30km地点だったら良かったのに。
がっかりついでに、私、どうせ美味しくないであろうMREを開ける。
温めて食べられるようになっていたけど、なんかもうめんどくさい。それに歩いていて少し汗ばむくらいななので、熱いものなんか食べたくない。
私はぱりばりとレトルトの袋を開き。そのまま押し出して中のトマトで煮込んだ牛肉を口に入れる。
「ワイルドだろー」って、自分で自分をそう鼓舞しないと、いろいろな意味で落ち込みそうだよ。
だけど……。
あれっ、案外悪くない。MREはわざと不味く作っているって聞いたから不安だったけど、これなら少しは許せる。もっとも、量はとんでもないけど。これだけあったら、晩御飯にもなっちゃいそうだよ。だってまだ、クラッカーとかは開けてないんだから。
でもって、歩きながら食べるってのがいいのかもしれない。このレトルトをお皿にあけて、テーブルについてナイフとフォークで食べたらとってもイマイチかもしれない。けど、こうやって歩きながら食べるなら悪くない。
ながら食べってお行儀悪いって言われているけど、おいしくなることもあるなら一概に非難できないかも。
気温はそれほど高くないけど、傾き始めている日差しは強く、その下を私たちは黙々と歩く。
なんとか煮込んだ牛肉を完食して、残りは晩御飯に回すことにした。こうなるともう本当に歩くだけになって、気持ち的には手持ち無沙汰だ。自然に目はきょろきょろとあちこちに向かってしまう。
歩き続けていると、海から打ち上げられて半分乾いたクラゲを見つけた。
魔界のクラゲも毒があるかもしれないから、靴のつま先でつんつんと突いてみる。
反応はない。
私、波打ち際までは結構距離があるけど、ここで乾いているよりはマシだと思って、思いっきり海に向けて蹴り飛ばそうと足を上げた。
「待てっ!」
「なによ?」
いきなりの大声で私を止めた元魔王に、私、ジト目で視線を向ける。
「死ぬからやめろ」
「もう死んでるじゃない。
あ、それとも私が死ぬの?」
「両方違うぞ。それ、乾いて仮死状態になっているだけだ。海に落ちたら確実に死んでしまう」
「えっ、これ、クラゲじゃないの!?」
「馬鹿者、これはスライムの子だ。この青さでわからんか?
これは余の民ぞ」
えっ、原住民?
じゃあ、水をあげたらしゃべるかな?
私、MREの袋からジュースの粉末を取り出して、水筒の水を加えてしゃかしゃか振った。
「……で、この子の口はどこよ?」
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