第16話 それぞれの技
座り込んだ私の前に、元魔王とケイディが歩いてきた。
「ケイディ、なにしていたのよ?」
肩で息しながら私が聞くと、ケイディは平然と答えた。
「アサルトライフルでどうにかなる相手ではなかった。手榴弾もあるが、それも使える状況ではなかった」
「そういうもんなの?」
私、露骨に疑いの表情になっていたと思う。だってさ、軍隊あがりなんだから、ある意味最強のはずでしょ。
「当たり前だ。アサルトライフルが、あんな化け物に歯が立つはずがない」
「だって、猟師さんは撃っているじゃん?
ケイディは、威力のある信頼性の高い鉄砲を持ったって言ったじゃん」
「猟師が持つ銃は、これの倍以上の威力がある。戦争で想定しているのは対人戦だぞ。熊ですらない」
えっ、ケイディの持っている銃って、そんなもんなの?
もっとこう、無敵なものと思っていたよ。
「じゃあさ、手榴弾で吹き飛ばせなかったの?」
「手榴弾は、爆発そのもので敵を倒すのではないぞ。その爆発で、外装の金属片を飛び散らかせて散弾のような効果を狙うものだ。当然、その破片は遠くまで飛ぶし、その破片程度ではあの化け物には通用しないが、乱戦で近くにいる戦士と武闘家には致命傷になる。つまり、使っても意味がない」
……ダメじゃん。それじゃ。
ケイディの装備は、人間の大きさ以下の敵でないと使えないんだ。そして、人間って弱っわ。
「じゃあさ、辺見くん、辺見くんは……」
「勇者を助けたあと、補助魔法で戦士の長巻の耐久性を増し、武闘家の前腕を強化したぞ」
……すごい、活躍していた。
守りのシールドは賢者が張ったけど、さらに細かいことを元魔王はしていたんだね。
そこへ、戦士の橙香と武闘家の宇尾くんが歩いてきた。その顔は、露骨に疲労の色が濃い。
「橙香、すごかったね。その武器も凄かったね。なんであんなに正確に斬れたの?」
「違う。
あの生き物の皮はやたらと堅く、しかも粘液で覆われていてまともに斬れるようなものではなかった。だから、一度刃が入った傷口を広げるしかなかったのよ。筋肉は皮より強くなかったからね」
さらっと凄いこと言うなぁ。あの乱戦の中で、必要に迫られたからそうしたって言うんでしょ。普通無理だよね。
「辺見くんが、戦士の武器の耐久性を魔法で増していたって言ってたけど……」
「そうね。それには助けられたけど、武器を失わないようにするのも戦士の技のうちよ。力任せに受け止めるのではなく、敵の攻撃の威力を殺すことも重要なの」
それで、か。水弾が弾き飛ばされなかったのは……。
今の今まで、橙香がそんな凄いことできるなんて知らなかったよ。
「宇尾くんも、あれ、どうやっていたの?
身体の大きさは冗談みたいに違ったけど、宇尾くんにぱんちされるの嫌がっていたよね?」
「浸透勁で、深いところに打撃を与えていたからな」
「しんとう……、なにそれ?」
「それより、今は疲れていてこれが重い。ちょっと外すわ」
そう言って、宇尾くんはばりばりと面ファスナーを剥がして、前腕に巻いていたものを砂の上に落とした。ずしんって音で、それが相当に重いものだって私にもわかった。
そっと持ち上げて見てみたら、中に刃物やら鉄の棒みたいなものやらがしこたま仕込まれている。ああ、これで水弾を受け止めていたんだ。すごいな。武闘家は、素手に見えて、素手じゃなかったんだ。
「で、そう人に聞く阿梨は、今回なにをしていたの?」
「えっ!?」
おしっこ、ちびらなかっただけでもホメて欲しいもんだわっ!!
あとがき
やれやれw
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