第15話 決着
ごろごろと砂の上を2回転して、ようやく私は立ち上がる。
聖剣タップファーカイトはどこまでも伸ばせる。同じ砂浜にいる敵を逃しはしない。たとえ海の中に逃げても、仕留めることができる。
そう思ったら、私、ようやく落ち着いて、戦況を見ることができた。
ウミヘビだかウツボだかの巨大生物、30mからの長さがあればその太さも4mを超える。武闘家の宇尾くんの身長の倍以上だ。その見比べができるほど、宇尾くんはその巨大生物に肉薄していた。
もちろん、長巻を小脇に抱えた橙香もだ。
宇尾くんが巨大生物を殴る。
これって、私が10cmの小人さんに殴られるのと同じだ。縮尺から考えたら、きっと猫ぱんちの方が強いはずだ。
だけど、巨大生物、宇尾くんに殴られるのがすごくイヤみたいだ。なんかのテクニックがあるのかもしれないけど、私にはわからない。
戦士の橙香も、長巻で斬りかかっている。
これも縮尺で考えてみたら……。こっちは少し怖い。私が1.5cmの刃物で斬りかかられるわけだけど、ちっちゃくたって刃物は刃物。痛いものは痛いんだから。
でも、刃渡り的に、深い傷を負わせるのは無理なのはわかる。だけど、見ていて戦士の長巻の切れ味は凄まじい。そして、橙香の体術がその裏付けになっているのがわかる。のたうつ巨大生物に斬りつけ、正確に繰り返して同じところに刃を入れ傷を深めていく。
巨大な魔王の首に斬りかかったときも、こうしたんだろうなぁ。
高校の教室での橙香からは、想像もできない動きだ。
私も戦うぞ。
聖剣タップファーカイトを現出させるために、物差しを構え……。
「戦士と武闘家がよく戦っている。そろそろあの生き物は逃げ出すだろう。
だが、勇者よ、殺すか?
その必要はあるか?」
……元魔王、アンタ、なにしていたのよ?
「あの生き物、この世界ではありふれているものなの?」
「わからん。
魔族は海には近寄らないからな。だが、別の見方をすれば、無縁であるがゆえに共存はしてきた。殺されたこともなければ、わざわざ殺したこともない。
それを、この世界に来たばかりのお前たちがいきなり殺すか?
そもそもだが、海に不用意に近づいたのは勇者の方なのだぞ」
……その言い方じゃ、私が悪者みたいじゃん。
「殺さなくても、引き分けられるの?」
「とりあえず、戦士を引き上げさせろ。挟み撃ちされていたら、逃げるに逃げられん。武闘家だけが相手となれば、あの生き物にとっては逃げ出すための隙が生まれたことになる」
「……わかった」
悩んでいても仕方ない。
私のせいで、食べもしない生き物を殺すのは嫌な気がするし。って、あんなの、毒がなかったとしても、全員で食べても1000分の1も減らないけど。
「橙香!
撤退!
宇尾くん!
私、精一杯の声で叫んだ。
橙香、長巻の柄を支えにして巨大生物の身体に駆け上がって、その上を走ってからこちらに駆け寄ってきた。なんでそんなことしたのかなと思ったけど、巨大生物が橙香に気を取られている隙に、宇尾くんが自分の位置を変え、退路を確保したのがわかった。
巨大生物は再び水弾を橙香の背に撃とうとしたけど、宇尾くんのぱんちがそれを防いだ。
賢者の魔法もその背を守っていた。
さらに重ねられる宇尾くんのぱんちに、ついに巨大生物は逃げ出し、ずるずると海に戻っていく。
ほっとして私、その場に座り込んだ。
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