第9話 ブレーメンの音楽隊!?
「では、魔法の術式を起動するが、目的地の魔法陣でも同じ術式が成立していないと無事に移動できない。単にここに留まり続けるだけなら良いが、たどり着けず、戻れずにどこかの空間を彷徨うのは避けたい。
なので、どうなるかわからないから、皆で余を囲み、離れないようにせよ。もちろん、2匹のロボット犬もだ」
「アンタにくっついていれば、なんとかしてくれるってこと?」
私の問いに、元魔王は難しい顔になって答えた。
「約束はできぬ。だが、努力はしよう。だが、余の努力の届く範囲にいなければ、そもそもどうにもならぬ」
「そか。
まぁ、魔素の節約のために、ずぶ濡れになってまで川を渡ってここにきたんだから、信用しましょう」
その賢者の言葉で、私たちは魔法陣の下に立った。
だけど、人数が多いからぎりぎりって感じ。私、不安になって聞いてみた。
「魔法陣からはみ出ていたらどうなるの?
天井見上げているけど、床と違ってその範囲に入っているか、今ひとつ自信が湧かないんだけど……」
「はみ出た部分はここに残されるだけだ」
……ちょっと待ってよ。
「さらっと怖いこと言うよね。左腕の縦半分だけ取り残されたら、それこそ洒落にならないって」
「せめて、魔法陣の中心が床のどこかはわからないの?」
賢者も聞く。
「一応は、この石畳のこの継ぎ目の位置ではある。だが……」
「だが、なによ?」
言い渋る元魔王に聞くと、元魔王は少し不安そうになった。
「ここの工事のときに、働いてくれたのはスライム軍だ。彼らは情に厚く信頼でき、身体の小ささを活かしてどのような細かい細工もこなす。そして、腹足で天井に逆さにぶら下がりながらの作業もでき、さらに、鋼の牙を装備することで石工までできるのだ。
そして、最後、魔法残の中心から鋼の剣を切っ先を下にして落とし、その結果がこの石畳のこの継ぎ目の位置だ」
「なら、間違いないじゃん」
私の言葉に、元魔王は首を横に振った。
「この魔法陣は空間干渉の働きを持つものぞ。重力をも超越した、な。今にして思えば、鋼の剣が真っ直ぐ落下したかが不安になってな。今までは魔法陣のキワを攻めることなど一度もなかったゆえ、どうしても不安が残るのだ」
「えーっ、ちょっと待ってよ。私、大怪我するの嫌だからね」
私の抗議の声を、今度はケイディが押しつぶした。
「そうは言っても、行かないわけにはいかないのだ。ところで、ブレーメンの音楽隊は誰もが知っているよな?」
「私たちが、魔法陣の中で縦に積み重なればいいってこと?」
「そういうことだ。さっきの渡河での協力を思い出せ。
ケイディと武闘家、ロボット犬たちを下にして、その上に勇者、賢者と戦士が乗る。さらにその上に元魔王が乗って、位置を決めて魔法を使う」
まぁ、たしかにこれで必要面積は半分だ。
「いい案かもしれないけど、ちっとも勇者の冒険の旅じゃないじゃないっ。
なによ、この地味さは?
しかも、元魔王を全員で支えるってなにっ!?」
「まずは、目的地にたどり着かねば冒険もへったくれもない」
……くそう、ケイディめ、正論を。
「俺は構わん。さっさと進もう」
「いいから早く魔法陣の下に立て。魔法術式を発動させるぞ」
武闘家の言葉に元魔王が便乗して、私は嫌なのに実行が決まってしまった。だいたいね、女の子を足蹴にして乗っかるってのが許せないのよ。
でも結局、私たちはケイディの案に従った。いくら治癒魔法とかあるにせよ、痛いのは嫌だからね。
そして、元魔王の魔法術式の詠唱が始まった。
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