第8話 魔法陣
まぁ、そんなこんなで私たちは、元魔王のいう空間を跳躍するための魔法陣にたどり着いた。
で、それってやっぱり隠されているんだよね。元魔王って、魔王やっていたときには、よっぽどひねくれた性格していたのかもしれないな。
だってさ、魔法陣よ、魔法陣。円や三角とかを基調に複雑な模様が描かれていて、その中でだけ特別なことが起きるやつ。だから、大抵は床に描かれているじゃん。それがさ、洞窟の天井よ、天井。でもって、この言い方、全部正確じゃない。
洞窟にぴったり嵌まり込むように石の建物が建っていて、その天井の部分の岩なの。しかも、描かれているんじゃなくて彫り込まれている。
嵌め込まれている建物自体は装飾のない簡素なものなんだけど、家という雰囲気じゃない。変に重々しくて、ちょっと不気味。
なんなんだろうね、コレ?
「……なんでこんな手の込んだことを?」
私がそう聞くと、元魔王は呆れたという顔になった。
「洞窟といえば魔族、魔族といえば洞窟だぞ。人間の常識では洞窟にものを隠すが、魔族にとっては生活の場だ。とはいえ、魔法陣の風化を防ぐため風雨は防がねばならぬから、このように洞窟であって洞窟ではないようにしたのだ」
「……建物じゃ、ダメだったの?」
「あまりに当然のことだが、単なる建物は、洞窟以上に他者が入り込むものだ」
「そりゃまあ、そうだけど」
まぁ、そうだよね。
Y0uTubeとかだって、廃屋探検の方が洞窟探検より多いだろう。
「じゃあ、これは単なる建物じゃなくて、なんなの?」
「言わば、去ってしまった魔族の納骨堂だ」
「ひぇっ!」
みんなから、声にならない悲鳴が湧いた。
でも、納得もした。たしかにこれなら誰も入りこまない。
「よーーくわかったけど……。
スライムにも骨はあるの?」
私、好奇心に負けて聞いちゃったわ。
「あるぞ。
「あるんだ!」
「なかったら、身体が流れてしまうではないか。また、魔王城に入る前に、スライム同士で話をしているのを聞いたではないか。当然ながら、脳もあるし、脳があれば脊髄もある」
「じゃあ、あの水滴型のとんがりは……」
「ああ、骨で支えられている先端だ」
「……マジか」
私、思わずそう呻いた。
その思いは橙香も同じだったようで、「ナメクジウオ? それともホヤ?」なんてつぶやきながら頭を抱えている。
ダメよ、橙香。
魔族に高校の生物の知識は通用しないわ。別のものとして考えないと。
で、私と橙香が頭を抱えている横で、賢者も頭を抱えていた。
「ねぇ、元魔王。天井に魔法陣描いたら、移動魔法発動時に床まで運んじゃわない?
それを避けるために、魔法陣は天井のない床に描くと思っていたんだけどな」
「魔法陣による移動魔法は、概念を具体化した結果の輸送ぞ。賢者が魔法陣によって形作られた空間のすべてを輸送物と見做すのであれば、当然そうなるだろうな。だが、魔法陣の中のなにかを運ぶという概念で運用するのであれば、床まで運んでしまうことはない。おのおの履いている靴までが具体化できれば、靴底だけ取り残すなどということもなかろう」
「やっぱり、魔法については魔族にゃ敵わないわ」
賢者のうめき声で、ここでの話は終わりになった。
あとがき
次回、いよいよ移動魔法発動です。
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