第6話 王の孤独、王の嗜み
「ケイディ。残念だけどその言い方じゃ、勇者だけじゃなくて戦士も武闘家もわからないわよ」
「どういうことだ?」
賢者のツッコミにケイディは怪訝そうな顔になった。
「お忍びで城を抜け出すなんて、『暴れんぼー将軍』とか見てないとわからないってこと。日本語の勉強とサムライ見たさにケイディは見たんだろうけど、今はもう時代劇とか自分から見に行かねば見られないから」
「日本で勧善懲悪が廃れてきているのは、そのせいなのか?」
「私にはわかんないわよ、そんなの」
うーん、ケイディと賢者の会話がわからない。
でもさ、なんとなく伝わってくるニュアンスとしては、息抜きのために王様が城から抜け出して遊びに行くってことだよね?
そか、そういうときを狙って王様と友だちになれれば、生涯安泰かもしれないな。
でも……。王様の顔がバレていないって前提が必要だから、江戸時代の将軍様ならいいけど今はもう無理だよね。それに、お忍びとやらで出歩いているときに、誰も頭を下げないからって「無礼者!」とか言っちゃまずいよね。で、友だちでもできちゃった日には、背中とかばんばん叩かれるかもしれないし、ペットボトルとか投げ渡されるだろうし、本人の心情的には大変だよね、きっと。
いちいち、「許そう、許さねば、許すんだ」って思い続ける毎日だもんね。
ん?
まだなにか言いたいことがあるの、元魔王?
「そういうことも皆無とは言わぬ。だが、それだけではない。本来の意味としては、落城時に備えて逃げる通路の確保をしておくのは王として当然の配慮だ。そのために、城からある程度の距離をおいたのだ」
「そか。じゃあ、前回私たちが戦ったとき、なんでその経路で逃げなかったのよ?」
私がそう聞くと、元魔王の辺見くんはため息をついた。
「決まっておろうが。
お前たちが、居室にいきなり現れたからだ。そして、城を抜け出すための魔法陣も居室にあった。先ほども話したが、脱出経路だぞ。敵の目の前で使えるものではない」
……なるほどね。
となると、さっきのはケイディの考えすぎっていうか、テレビの見過ぎ?
やたらと日本に詳しいけど、生まれ育っていない悲しさで、時代劇の設定を鵜呑みで信じちゃったのね。
覚えておいて、あとでイジメちゃろ。
「でも、仕事に使っていたって言っていたよね?」
とこれは戦士の橙香の質問。
うん、言ってた言ってた。
「だから、それは今向かっている魔法陣から全土に繋がるシステムだ。そのシステムに城から繋がるのは余の居室の魔法陣しかない。で、それについてのみは秘密だったのだ」
まぁ、公然とみんなに知られたら、逃げ道として用はなさないもんね。
「……じゃあ、普段、仕事で使うときはこの道を大名行列していたわけ?」
「そんな面倒くさいことはせぬ。ワイバーンの背に乗れば距離と言える距離ではない」
なるほど、納得。
「じゃあ、その魔法陣の転送システム、現魔王も使っているの?」
「わからぬよ。使っているやもしれぬが、使っておらぬかもしれぬ。このような経路は、自ら密かに構築するが王の嗜みゆえにな」
ふーん。そういうものなんだ。
「王とは孤独なものよ。
それに触れぬようにしてくれたケイディの心遣い、余は忘れぬぞ」
えっ、そっちなの?
あ、ケイディの片頬、ぴくぴくしているっ!
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