第5話 10日間の旅程


 朝食を終えて、私たちはそそくさと歩き出した。少し時間を使いすぎたという反省もあったからだ。

「ねぇ、元魔王の辺見くん。歩いて60日の距離をどう短縮するの?」

 私の問いに、辺見くんは少し考え込んだ。


「1日10時間歩いて、稼げる距離は40kmだ。つまり、地球距離で2400kmから2500kmはあるんだ。で、上将ワイバーン『謀略のアウレール』は、時速80kmで飛ぶ。同じく1日10時間飛ぶとして、3日で同じ距離ということになる」

「うん、算数だから、そのくらいはわかるよ」

 そりゃね、私は一応JKだからね。


「そうか。

 ならば、我々は10日で行かねばならないから、1日250km移動せねばならないのはわかるな?」

「うん。時速25kmを維持する必要があるってのもわかる」

「そこが違う」

「どういうこと?」

 私の問いに、辺見くんはにやりと笑った。

 気がつけば、一緒に歩いているみんなが私たちの会話に聞き耳を立てている。


「ここで余は、30年の統治をしたのだ。そして、各地で王権をもって実証圃を作った」

「それはさっき聞いた。つまり、どういうこと?」

「その仕事のため、余は30年掛けて各地に魔法陣を残した。そしてその魔法陣へなら、瞬間的な移動ができる」

「凄ぇッ!」

 あ、宇尾くんが感動しているな。


「じゃあ、その魔法陣のどれかにたどり着けば、一瞬でザフロスの渓谷に行けるじゃん」

「だが、そうもいかんのだ。余の魔力では、この人数と荷物を伴うとなると、そう長い距離は跳べぬ。せいぜい1日で300kmがいいところだ。それでその日の魔素は尽きてしまう」

「なら、10日で行けるじゃん」

「極めて順調に行っても10日、と言ったのだ。ザフロスの渓谷近くには、実証圃を作るような村はない。だから、最後の魔法陣からは徒歩での旅となる。しかも、深奥の魔界の魔族と戦いながらということになろう」

「たしかに日程的にぎりぎりだな。

 しかしなぁ、この程度の輸送が『大量』の範疇になってしまうとはな……。トラック1台分にも満たないぞ」

 ケイディがつぶやく。


「それだけではないのだ。さらに不安材料がある。余が死んでからのち、これらの魔法陣のメンテは誰も行っておるまい。つまり、部分的にも消えていたらそこへ跳ぶのは無理となる。跳べるとしても、予想外の大回りを強いられる可能性は無視できぬ」

「……そりゃそうよね」

 今度は賢者が相槌を打った。


「それでも、2500kmを歩くのに比べたら、遥かに現実的だと思うよ。北海道の北の果てから沖縄の南の果てまでの距離を10日で歩くなんて、絶対ムリなんだから」

 そうだよね、橙香。

 で、北海道の北の果てから沖縄の南の果てまでの距離って、2500kmくらいなのか……。


「今、至近の魔法陣へ向かっている。そこまでの10kmほどは歩いて欲しい。そこから先は出たとこ勝負だ」

 うん、わかった。歩くよ。

 ……あれっ!?


「今、気がついたんだけど……」

「なんだ勇者?」

「その魔法陣って、本来は魔王城にこそなきゃいけないんじゃないの?

 でもって、14、15km先に魔法陣作るって、近すぎておかしいでしょ?

 わざわざ、歩いていってワープしてたの?」

「それは聞いてやるな、勇者」

 なに?

 ケイディ、どういうこと?

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