第3話 ピクニックじゃない
私、サンドイッチとコーヒーを持って腰を下ろした。地面に直接座るだなんて、小学校のとき以来かも。
で、みんなで輪になって食べるんだと思っていたら……。
みんな私の背中側に背を向けて座りやがった。えーっ。みんな、そんなに私がキライかいっ!?
どうしたらいいかわからなくなって、私、立ち上がった。せめて橙香だけは、私に氷みたいな言葉は投げつけないよね……。
だけど……。
「うろうろしないっ。
きちんと座って食べなさい」
橙香、な、なんでよ!?
でもって、なんでみんな背中を向け合って食べているのよ?
私だけじゃないのは安心したけど、そんなに仲悪かったっけ?
「どうして?
どうして、みんな?」
「ピクニックじゃないんだぞ」
そんなことはわかっているよ、ケイディ。
「勇者だろ、座って食べろよ」
どういうこと、宇尾くん?
「……あのね、勇者。ここは言わば敵地よ。元魔王の辺見くんがいるからって、気を抜いてよいことにはならない。深奥の魔界の魔族とだって、これから遭遇するはずなんだから。だから、背中合わせで座って自分の正面を見張るの。そして、異常があったらすぐに知らせるの。仲良く顔を合わせて輪になってご飯なんか食べていたら、1回の火炎魔法の不意打ちで全滅しちゃうんだから」
ああ、そういうことなんだ……。
ケイディの言うとおり、ピクニックじゃないんだね。
「じゃあ、寝るときは交代で寝るの?」
私の問いに、ケイディは頷いた。
「勇者、いい加減自分の正面を見張りながら聞け。一応近接センサー類は持ち込んでいるが、それだけで安心はできない。そもそも人間を前提に作られた機械だから、魔族に使えるかどうか……。
なので6人のパーティーだから、身を隠せるところなら1人が見張り、5人が睡眠で1時間半交代で回す。身を隠せないところなら、2人を見張り、4人が睡眠で2時間交代で回す。だが、まあこれは非常時対応だ。
もちろん、寝るときも肩を触れ合う形で寝るんだ。隣が忍び込んだ敵に刺殺されたときに、気がつくようにな」
なによ、それ。
怖すぎるじゃない。
「ねぇ、元魔王。この世界には、ホテルとかはないの?」
だれだって寝ずの番なんかしたくないし、部屋の中ならもう少し安全かもしれないじゃん。まずはそれを聞くよね。
「大量輸送手段がないので、隊商宿ならあるが……。
安全ではないぞ。個室などないし、雑魚寝だからな。泥棒も出るから自己防衛しないとだ。盗まれるのが自分の命ということもありうる」
ちょっと、ちょっと、なにそれ。
「宿の建物ごと燃やされたら、全滅だしな」
ケイディ、アンタも大概だよね。どんな日常生活を送ってきたのよ。
もっと平和に、安心して生きられる、ほら、もっとこう、あるでしょ!?
「アンタ、魔王としてなにやってんのよ。流通を整備しなきゃ、国が発展しないわよっ!」
半ば八つ当たりで私、元魔王に指摘する。でも、視線が合わないと、話ってしにくいねぇ。
「食料生産なら倍増させたぞ。だから魔族の数が増えて、勇者の世界に攻め入れたのだ」
「……余計なことを。で、その作った食料は輸送の必要がなかったの?」
「基本ないぞ。魔族と一括りに言うがスライムとワイバーンでは食べるものもその量も違いすぎる。それぞれの集落で生産し、食べるのが基本だ。人類のように、小麦の大量輸送というような発想はない。
そもそも、魔族はドラゴンでも温血動物ではないからな。食べる量は人類の10分の1以下だ」
なんだって!?
魔族と人類は、本当にぜんぜん違うんだねぇ……。
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