第2話 旅の最初の食事
ちょうど1時間くらい魔王城から下ったところで、平地になった。登るときは半日掛かったのに、下りは早いね。足元が悪くても、だ。
で、そこにはこんこんと清水が湧き出す泉があった。
「元魔王は浄水魔法は使えるの?」
「生活の基本だからな。賢者も使えるのだろう?」
「ええ。一晩寝て体内魔素は満タンになっているけど、体内魔素の絶対量が違うから、お願いできたら助かる」
「わかった」
ふーん。元魔王、なかなか使えるじゃん。
「賢者の杖にも浄水機能あるんだよね?」
私の確認に賢者は首を縦に振ったけど、杖をバラそうとはしなかった。
「戦いのあととか、喉が渇いているのに体内の魔素が尽きているなんてことがあるでしょ。そういうときこそ使うの。浄水フィルターは使い捨てだし、数に限りがあるから」
「なるほどねー」
さすがは賢者だ。いろいろ考えているんだね。
ケイディが犬の背から荷物を下ろし、ごそごそと包みを取り出す。
ケイディの国の基地で訓練のときに食べたMREってやつかな。あんまり美味しくなかったけど、それでもお腹がぺこぺこのときは嬉しいよね。
一緒に取り出した折りたたみバケツで水を汲んで、元魔王がなにやらもごもご唱えると、一瞬だけだけど水が輝いた。
「これできれいになった」
「そのままでも飲めそうだったけどね」
私の言葉に、賢者が首を横に振った。
「上流に魔王城があるのよ。
トイレがだだ漏れで流れていると考えておかないとね。油断していると、死ぬよ」
「……もう飲みたくない」
「大部分は地中でろ過されているからね。まず危険性はないとは思うけど、飲みたくないなら飲まなくてもいいわ」
そう言って賢者は、人数分のカップにセットしたカセットコーヒーの1つを、包んであった袋に戻した。
今度は賢者がなんか唱えたら、水はいきなり沸騰した。たぶん、浄化魔法より沸騰させる魔法の方が魔素の消費量が少ないんだろうな。
「さ、これで煮沸もできたし、コーヒーが飲める」
なんかいい香りだな。
なんてやっていたら、ケイディがそれぞれに包みを渡してくれた。あれ、これ、MREじゃないよね。
「1日分だけは、生鮮食品を持ってきた。単純なサンドイッチだが、このあとはもう生野菜は食えないだろう。ビタミン剤で対応することになるが、まぁ、食べ納めだ」
えっ、それはマジで嬉しいな。
ってもそうなると……。
「……やっぱりコーヒー、飲みたい」
「言うと思った」
う、うるさいやいっ。
ケイディの国に行く途中の飛行機の中で食べたサンドイッチは、まぁ、サンドイッチだった。うん、違うと言う人がいたら意見してあげたいほどサンドイッチだった。それ以上でもそれ以下でもなかった。
だけど、これ、違う。
これは見るからに美味しいサンドイッチだ。
賢者に嫌な顔されたけど、コーヒーがあってよかった。
「基地から持ってきたんでしょ?
でも、あの基地にこんなの売ってた?
てか、基地の食堂にこんな美味しそうなの、なかったよね?」
私の問いに、ケイディはぼそっと一言答えた。「私が作った」と。
えーっ、マジですか?
「ロボット犬に冷蔵機能があるのは知っていたから、まぁ、作ってみたんだ」
「ケイディ、ありがとうっ!」
「不本意ながら、日本での生活が長かったからな。まぁ、メシは日本の方が旨い。単なるマヨネーズすらもな」
……そうなんだ。
あとがき
ピクニック気分の勇者ですが……w
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