第四章 魔界での旅立ち
第1話 歩き出しながら
昨日登った道を、今朝は降りている。
魔王城は私たちの後ろにそびえ立っている。昨日は曇っていて雲に隠されていたけど、今日は晴れているからよく見える。なんていうか、城といっても私の
頭の中にある城とはなんか違う。
もちろん大阪城みたいなんじゃないし、西洋の石のお城に近いと言えば近いんだけど、なんかぜんぜん違うんだ。
「どうしたの?」
賢者が私の顔を見て聞いてきた。
「なんかね、城が違うの。初めて見たよね、こういうの建物」
「そうか、勇者はまだ記憶が取り戻せていないからね。
簡単なことよ。城は攻められて守るための施設。弓矢や鉄砲による攻撃を想定して、それに耐えるように作るし、またそれを行いやすくなっている。銃眼があったり、身を隠すためのぎざぎざがあったりね。でも、この城は魔法が前提だから、火の魔法で燃えないように石造りだし、水の魔法で溺れないように高いところにある。偵察するところ以外で窓が極端に少ないのは、風の魔法への対処ね。改めて見ると、やっぱりよくできているわ」
「ふーん、すごいんだね」
私、ときどき振り返って魔王城を眺めながら歩く。ただ、完全に見入っちゃうと、下り坂を歩いているわけだから大怪我しかねない。
「いや、欠陥品だ。
おそらく今はもう対処されているだろうが……」
「なんでよ、元魔王?」
「魔法のやり取りについては考え抜かれているが、魔法無しの生身で忍び込まれるとは思っていなかったからな」
「そういや、前にもそんなこと言っていたよね」
私の言葉に、元魔王は苦虫を噛み潰したような顔になった。
私、気がついたんだけど、この不機嫌な顔が好きかもしれない。だから、この顔させようとしているのかもしれない。
なんかさ、苦み走ったというか、ニヒルというか……。
ええい、なにを言い出しているんだ、私は。気のせいよ、気のせいっ。
「魔法を使うということは、魔素の流れに変化が生じるということだ。だから、魔王城内で魔法を使えばすぐにわかるようになっている。だが、生き物が動くこと自体には無頓着だったのだ」
「なんで?
魔法を使うのも生き物だから、生き物を見つけて抑えた方が異常を見つけやすいんじゃない?」
「そんなことしたら、城内のいろいろな動物に反応してたいへんなことになる。下水にはネズミのようなのがいるし、城の上を鳥が飛ぶことだってあるからな」
「あ、そっか」
言われてみれば当然だ。
城の守りを固めるって、案外大変なんだな。魔法対策にかまけていたら、それ以外の攻撃に対して疎かになったってことか。
「人体を見つけるセンサーみたいのがあったら……、あっ、撤回」
言いかけた私は、すぐに自分の言葉を取り消した。
「そうなのよ。魔族はスライムからドラゴンまで多彩な大きさがある。人感センサーは意味がないのよ」
どうもご親切に、賢者。でも、今のは自分で気がついたよ。
道は石がごろごろしていて歩きにくい。
きっとこの歩きにくさも防衛のうちなんだろうな。歩きにくいからって空中浮揚とかの魔法を使えば、すぐに探知されるってわけだ。つまり、罠だらけってことだなぁ。
「下に降りきったら水があるから、そこで朝食にしよう」
「賛成!」
私は元魔王の提案に、全面的に同意した。さぁ、ごはんだごはん。
私、俄然、一生懸命歩き出した。
あとがき
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