第26話 魔王城の朝
目覚めは最悪だった。
体中が痛いし、寒い。でも文句を言ったら、きっとまた自業自得と言われちゃう。
曇り空が明るくなってきたら、ケイディが起き出してきて、ぐるりと周囲の写真を撮った。さらにそのデータを持ってきたパソコンに入れて、なんやかんやと操作している。
みんな冷たい石の上で苦痛の表情で寝ているのに、熱心だわね。
「おはよう、ケイディ」
私の声は、自分のものじゃないというくらい嗄れていた。こんな寒いところで寝たからよ。暖かい部屋で、真っ白なシーツに包まれて目が覚めたら、鈴のような美声で話せていたはずなのに。
「なにやってんの?」
「データ分析」
「愛想がないわね。もうちょっとわかるように説明してくれない?」
「リモートセンシングの応用で、この土地の生産力を調べている。土地の色調から植生と、さらにそれが畑かどうかがわかるからな」
「意味あるの?
スライムとワイバーンが同じものを食べているとは思えないんだけど……」
なんか不思議なことに、ケイディはこの質問に嫌な顔をしなかった。
「だが、接してみて彼らが生き物であることに間違いはないと思う。生き物であれば、まぁ、機械であってもだが、外部からのエネルギー補給がなければ動けないものだ。そして、昨日見たどの魔族も、例外なく口を持っていた。つまり、彼らがなにかを食べている可能性は高い」
「話すためだけの口かもよ。魔族はスライムですら話すし」
「なら、鼻が不要になる。あの上将ワイバーン、鼻の穴からも黒煙をあげていたからな。呼吸と食事で鼻と口があるのは間違いないのではないか?」
「そか、食べる必要がなければ、鼻で話せば良いんだもんね。牙のある口なんか必要ない」
「そういうことだ」
他の人を起こさないように小声で話していると、むくりと元魔王の辺見くんが身体を起こした。
「話は聞いていたが、ケイディ、大きな間違いをしているぞ」
「どういうことだ?」
ケイディの問いに、辺見くんは力なく笑った。
やっぱりがらがら声だ。空気が乾燥しきっているのかもしれないね。曇り空なのに。
「ここで暮らしているのは魔族だけではないぞ」
「あ、そういえば、『厳密には向こうの世界の動物とは異なるが、こちらにも相当する動物はいるぞ』って言っていたわよね。魔素を使わない動物の生態系があるって……」
「そうだ。土地の生産力を調べるのは、まぁ、悪くはない。だが、その情報の解釈には知識と知恵が必要だ」
「……なるほど」
ケイディはそう口に中でつぶやいた。
「まぁいい。答を教えてやる。転生した世界、つまりお前たちの世界は、魔界より遥かに豊かだ。この土地の生産力は、お前たちの世界の4分の1にも満たない。ただ、魔素がそれを補っている。だから、2つの生態系が別個に存在し、食う食われるの関係も保ちながら共存していられるのだ。
魔素が尽きれば我々の生態系は滅び、日の光が届かなくなればここの土地の生産力が尽きてもう1つの生態系が滅びる。
星としての生命維持に、貧しかったゆえに2つの柱を持つという方法を採らざるをえなかった。それがここ、リモアール星なのだ。地球の常識で語るな」
「……う」
魔王の言葉に、ケイディは息を呑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます