第25話 魔王城で一泊2


「元魔王、なんで言ってくれなかったの!?」

 螺旋階段を上りながら、私、まずはそう文句を言った。

「余は、さすが勇者と感心して聞いていたのだぞ。魔王領の観察をし、魔王城のつくりを調べるのに、よくも最良の場所を選んだ、と。また、魔族の税により成り立つ王宮の贅には無関心なのも、その意気や良し、と」

 ぐっ。


「……賢者、なんで言ってくれなかったの!?」

 私が矛先を変えると、賢者も不本意って顔になった。

「宿泊するのに、一番暗殺の危険のないところを選んだって感心していたのに……」

「城の一番高いところって、暗殺の危険がないの?」

「……行ってみればわかるよ」

 ……なんなんだ。


「ねぇ、武闘家。君も……」

「俺は屋根があればそれだけでありがたい。野宿で雨が降ったら、あまりに悲しいからな」

 こいつは、もう、ホント脳筋なんだから……。


 あー、もう、誰も私のこと、わかってくれない!

 美味しいもの食べて、身体洗って、温かく眠りたい。それを願うのが悪いことなの?

 でも、悔しいことにそれも口に出せない。「魔族の税により成り立つ」とか言われちゃうと、私、払ってないから。


「ねぇ、元魔王、王宮が生活の場なら、なんで私たちに討たれたときに魔王城にいたのよ?

 あのとき王宮にいたら私たちは王宮に忍び込んだし、賢者からそう聞いていれば……」

「お前な……。

 勇者が攻めてくる戦時だったから魔王城に移動したのだ。当然のことではないか。王宮にい続けたら、あまりに愚かであろう」

 ち、ちきしょー。

 私のせいだって言うんかいっ!



 話しながら、延々と螺旋階段を上り続け、ようやく一番高い部屋にたどり着いて、そこに入ったときの私の衝撃、わかって欲しい。ここ、部屋と言ったけど、部屋じゃない。

 単なる石組みの囲いよ、ここ。屋根はあるけど、そして窓もあるけど、その窓にガラスは嵌っていない。冷たい風がそのまま通り抜けていく。

 もちろんベッドなんかないし、お風呂もトイレもない。棚程度の家具すらない。


「お風呂は辛抱するけど、トイレはどこ?」

「階段を降りたところにあるぞ」

 元魔王の辺見くんにさらりと答えられて、私、その場に座り込んじゃった。トイレのたびにこの階段を降りて、また上るの? 冗談でしょ?

「せめて、座るくらいの椅子とかあってもいいじゃん!?」

 私の言葉に、元魔王はまたため息を吐いた。


「あのな、勇者。城の最上階は敵を見張る場所だぞ。一定時間で交代制で見張るのだから、トイレなど必要ない。人間の城なら矢の貯蔵くらいはしているだろうが、魔族は魔法で戦うからそのようなものも必要ない。また、魔族は種族によって体格がばらばらだから、人間用の椅子なんか置かないぞ」

 くそっ、さっきから、なんの反論もできない。

 滅茶苦茶悔しい。

 現魔王、アイツもわかっていて一泊を認めたわよね。私と同じ顔していて、なんて悪辣なんだ。


 塔の上のラプンツ工ル、あの人はどんな生活していたんだろ?

 考えてみたら、塔の上まで大量の水と燃料なんか運べないから、お姫様なのにお風呂はナシだよね。食事は下から運び上げたのかな。スープはこぼれるし、冷めるよね。

 トイレは自由落下だろうけど、高低差で凄い音がしそうだ。

 こんなところで生活できないよ。


「うだうだ言ってないで、もう寝なさい、阿梨」

「橙香までそんなこと言うの?」

「自業自得よ」

 はっきり言ってくれたわね。

 くやしいけど、今の私、反論できない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る