第12話 私、怖くなった
「つまり、どういうこと?
ってか……」
私の言葉に、賢者は頷いた。
「そうよ、勇者。あなたの考えているとおり」
魔界の魔族は、魔王を討ち取られてからその数を回復していない。魔王軍としての体裁も、私たちが前世で戦ったときから回復していないんだ。
「そりゃあさ、上将ワイバーン『謀略のアウレール』は生き延びたけど、他の魔王軍の幹部連中の大部分を討ち取っちゃったからね。社会のピラミッドの上半分がごっそり抜け落ちたら、そりゃあ、魔族の数を増やせるような安定したシステムもなくなるかもね」
賢者の言葉に、私、怖くなった。
「私たち、魔王を討ち取って、大量虐殺して、ここの社会を壊しちゃったってこと?」
「そりゃそーでしょ。戦争まではいかないにせよ、テロというには正面から攻撃していたし、魔界の軍だの警察だのみんな全滅させたんだから。
最後は、魔王の持つ政府というか、政治機構の総力戦だったよね。ケイディの国の大統領を私たちの方法で討とうとしたら、大変なことになるでしょ。そういうこと」
「じゃあ、魔王が2人いるからって、軍を二分したら……」
「各個撃破で終わるわねぇ」
「……なんてこと」
私、もう、言葉もない。
記憶を取り戻していないから、正確なことは言えない。で、RPGのゲームもたくさん遊んできたけど、魔王側の立場から考えたことはなかったんだよ。
ということはさ、私、魔王に魔法を戻してあげても……、いや、戻してあげるべきなのかもしれない。で、それはいいんだけれど……。うーん。
「上将ワイバーン『謀略のアウレール』、私の話を聞きなさい」
「勇者、今さらなんの話があるというのだ?」
「まず最初に、1つだけ考えを聞かせて。『謀略のアウレール』の、その知の力に尋ねたいの。私たちにとっては深奥の魔界、あなたたちが魔界と呼ぶ世界から、この世界や私たちの世界に攻め入って来る理由をどう考えている?」
「決まっているではないか。古今を問わず、攻め入るということは、攻め入るだけの力の余裕があるということだ。逆に力なくして困窮に喘いで攻め込むなど、数日籠城されただけで敗走してしまう。これでは勝利を望める、まともないくさにはならぬ」
やっぱりそうか。
「で、攻め込んでも返り討ちにあうと、今のあなたたちと同じの不本意な状況になってしまうのよね?
そうならないために、深奥の魔界、この世界、私たちの世界で力の余裕を無くす方法は考えられる?
てか、余裕はあってもいい。でも、攻め込むのを抑える安全保障の方法が欲しい。
その答えがあるなら、私、元魔王に魔法を全面的に戻すことを約束する」
「勇者よ。そのようなことはわけもない。この上将ワイバーン『謀略のアウレール』が、二度と攻め込まないことを約束しよう」
「アンタねぇ、悪いけど、口約束は信用できない。その言葉が信用できるだけの根拠をちょうだい」
私がそう拒絶したら、アウレール、濡れた頭を振って黒い煙を吐き出した。
「条約など結んでも無意味だ。だから、お前も根拠を求めているのだろう。この『謀略のアウレール』、そのために誇りをかけて言ったのだ」
「……『愛と信用のアウレール』が言ったんなら、まだ信じられるのに」
「そんな改名、恥ずかしくてできるものかっ!」
まあ、そう言いたい気持ちはわかるよ。きっと、呼ばれるたびに全身がカユクなるよね。
「元魔王、それから今の魔王と『謀略のアウレール』の3者でなにか考えることはできないの?」
こう投げかけたのは賢者だ。
あとがき
さてさて、まずは戦いを回避w
賢者、いつも先走る勇者を止めるのに成功w
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