第11話 二王並び立たず


「イイワケはやめろ!」

 上将ワイバーン『謀略のアウレール』が、私に向かって唸り上げた。口の端からはちらっと炎が漏れている。

 なにする気よ?

 やめてよね。怖いじゃないっ!


「命を賭けて戦ってきた相手を信用するのに、やっぱり無条件にってのは無理なのよっ。それが平気でできるっていうなら、アンタこそ『謀略のアウレール』じゃなくて、『愛と信用のアウレール』とかに改名しなさいよっ!」

「貴様っ!」

 ワイバーン、翼をばさばささせてさらに私に向かって雄叫びを上げた。


「脅したって、ダメなんだからねっ!」

 私も負けずに叫び返す。

「脅しではないっ!

 殺してやるわぁっ!!」

 そう叫んだ上将ワイバーン『謀略のアウレール』の頭に、いきなり大量の水がざぶざぶと降り掛かった。


「ごめんね、アウレール。頭冷やして。

 一応、喧嘩は止めないといけない立場なの。そもそも、元魔王がここまで耐えているのは、魔界からの侵略を防ぐためでしょ。今の私たちの利害は、残念だけど一致しているの」

 賢者の言葉に、上将ワイバーン『謀略のアウレール』、くしゃんってくしゃみをした。

 口からは炎の代わりに、薄黒い煙だけが立ち上っている。

 魔界はすごいな。もう魔素が貯まって、水をぶっかけるくらいの魔法は使えるんだ。


「……だからといって、魔族を虚仮コケにして良いわけがあるかっ!」

 ぶるるるるるって、犬みたいだね、アウレール。

 で、アウレールのその言葉に、賢者は深く頷いた。

「もちろんないよ。

 だからさ、ねぇ、勇者。元魔王に魔法を戻してあげなさいよ」

 えっ、いきなりそんな提案?


「だって、元魔王に魔法を戻したら、私たちも私たちの世界も……」

「その心配はないでしょ。なんたって、今は私たち、私たちの世界にはいないの。元魔王がいくら暴れても、私たちの世界にはなんの影響もないでしょ?」

「……それはそうだけど」

「でもって私たちは、聖剣タップファーカイトの力で空間転移で帰れるでしょ。元魔王は置き去りにして」

「……それもそうだけど」

 私、ほとんど同じ言葉を繰り返す。


「でも、魔界が魔族で溢れかえって、また私たちの世界に攻めてくるかもしれないじゃん」

「まぁ、ね。魔王が2人いることになるから、深奥の魔界と私たちの世界と、両面作戦自体は可能でしょうね。でも、実際には内乱が起きるでしょうね。二王並び立たず。これはどこの世界でも、どの時代でも不変よ」

「そうかなー。私たちの世界に元魔王を征服させながら追放するってのはありそうだけどなー」

「……勇者って、ときどき面倒くさいこと言いだすのよね」

「は?」

 なんなの、いったい。


「元魔王派の部下も一掃できるし、イイコトだらけみたいだけど……。実は違うの。ケイディの方を見てみなさいよ」

 そう言われて私、一瞬視線だけを飛ばす。


「あれっ?」

 私たちを上将ワイバーン『謀略のアウレール』と挟み撃ちにするための、もう1つの部隊。たくさんの足音させていた連中だ。

 それがね、スライムばっかの弱小部隊なの。

 すたすたは、治癒魔法を使える足の生えたやつだし、ずるずるはバブル系スライムだし、ぱからぱからって、騎士ナイトを乗せただけで足音をそれっぽく変えるんじゃないわよっ! アンタ、スライムの自覚を持ちなさいよっ!!

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