第9話 おいたわしや


 上将ワイバーン『謀略のアウレール』とやらは、さらに嫌なことを言い続けた。

「口先で褒めてごまかされても困る。そもそもだが、死んだ先代の王が生まれ変わった世界から帰ってきたなどということ、受け入れるわけには行かないのだ。それが良いことだとなれば、先々代、さらにその前の王と、キリが無くなる。王権そのものが揺らぎかねぬ事態ではないか」

 うー、やっぱり腹立つ。

 なんか、正しいこと言っているからこそ腹が立つ。


「謀略のアウレール、見事な筋論だ。だが、聞け。

 繰り返すが、余は今の王権を求めてはいない。あくまで援軍としての一勢力である。そして、本来はこの世界に対する魔界の進出が、この世界を超えて今の我が世界に及んでいるからこそ戦いに来た。余が先王であることはたまたまである。

 その証を立てよと申せども、その必要などない。よくよく今の現状を見るがいい。

 これも繰り返すが、上将ドラゴン『終端のツェツィーリア』ではなく、勇者とこの世界に来しことだ。今の我が世界の、軍の者が同行しているということだ」

 翼の羽ばたきが止まった。

 ふわりと、上将ワイバーン『謀略のアウレール』は地面に降り立つ。


「……よもや、よもや?」

「……ようやくわかってくれたか?」

「他の者が岩陰に隠れ、王自らが話しに参られたのは、まさかの……」

「これを見よ」

「……おいたわしや、我が王」

 元魔王の辺見くんが首筋の傷を見せて、ワイバーンは金色の眼から涙を滴らせた。


 ……どういう意味よ?

 アンタら、いきなり、なにをわかり合っているの?

「ここに来るにあたり、余は勇者から打擲すら受けているのだ。だが、どれほどの目にあおうと、元の我が世界と今の我が世界を守るため、余は忍ばねばならぬ。皆のために、忍ばねばならぬのだ」

「おいたわしや、我が王よ」

 超チャクってなんだろ?

 どこかに、ちょー着くのかな?



 気がついたら、賢者が私の横に立っていた。

「……そりゃあ、自分からは言えんわなぁ」

「なにを、よ?」

 なにかを納得している賢者に私は聞いた。


「腐っても魔王は王よ。勇者から受けた仕打ちやイジメられた日々を、元の家来に言えるわけないじゃん。ましてや、『今は勇者のパシリとして話している』だなんてね。

 私たちが隠れていたの、元魔王が私たちを庇っているとあのワイバーンは思っていたのよ。だけどねぇ、実はそうじゃないぞ、と。魔法すら封じられていて、誰ともまともに戦えないんだ、と。

 ケイディがいるのも、ねぇ……」

「えっ、どういうこと?」

 私の聞き返しに、賢者はなんか悲しそうな顔になった。


「ねぇ、五月女さん。あなた、辺見くんの魔法を封じているの、忘れているでしょう?

 だから、さっきの炎、氷、雷の上級魔法に対しても、その身を元の姿に戻せず耐えるしかなかった。あれは余裕じゃなくて、追い詰められた姿だったのよ。だけど、さすがは魔界での魔王。焼かれず凍らず感電せずだけど、それだけに過ぎない。私たちと戦い抜いた、あの勇姿は片鱗もない。

 つまり、辺見くんが魔法を使う話をするのは、『勇者が一時的にも許可してくれるのであれば』という前提の元だし、さっきの畝を登るのだって、勇者が竹の物差し握って魔法の使用を許した形になったからできたことでしょ?

 聖剣タップファーカイトが反応したのよ。それだって、元魔王の浮遊魔法はふらふらで、本来の形じゃなかったはず」

 そういうこと?

 マジで、完全に忘れていた。私がオッケー出さないと、元魔王は魔法が使えないんだったぁ。



あとがき

元魔王と家来の愁嘆場なのですw

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