第8話 放送禁止用語回
元魔王の辺見くんは続ける。
「そもそも聖剣タップファーカイトの力がなかりせば、余とてここに来ることも叶わぬ。それになにより、魔界からの攻撃はすでにこの世界を超え、余が転生した先まで影響が及んでいた。
そのためにやむなく、同じ世界に転生していた勇者パーティーを頼り、彼の世界の軍をも頼った。余とともに転生した魔族もいたが、上将ドラゴン『終端のツェツィーリア』の元に留守居役を命じてある。これも不要の諍いを起こさぬためぞ」
元魔王の辺見くんが話しているのに、その前に立ちふさがったワイバーンはゆっくりと翼を羽ばたかせて無言で辺見くんを眺めている。なんか、それを見ていたら私、怒りがこみ上げてきてしまった。
だってさ、このワイバーンってば、最初っから辺見くんが元魔王だってのは疑っていなかったよね。まぁ、その分焼いたり凍らせたりしたんだろうけど。
でもって、この世界を救おうとやってきたのに、侵略を疑うだなんて。しかも、王様に対して上から目線(物理)で、しまいにはだんまりを決め込むだなんて。
「どーせ判断ができなくて黙っているんでしょうけど、元魔王は嘘なんか言ってないよ!
だいたいさ、そもそもさ、アンタ誰?
名乗るのが筋でしょ」
私、岩陰からつい姿を現してしまって、叫んでいた。ってか、スケール感的につい叫んじゃうよね。私からしたらワイバーン、30mも先にいるのに視界を覆うほどの大きさなんだから。
「済まない」
えっ、なんで元魔王が謝るの?
でもって、ワイバーン、なんでアンタが驚いているの?
「まさか勇者、転生したはいいが、ここでの記憶がないのか?」
「記憶はないのに聖剣タップファーカイトだけは使えるのだ」
ワイバーンの問いに、辺見くんはなんか本当にもうしわけなさそうに答えた。って、そのもうしわけなさは私のせいなんかよっ!?
「それでは、◯チガ◯に刃物ではないか……」
「……誰がキ◯◯イよっ!?」
私、つい怒りで、ぶんぶんと竹の物差しを振り回しちゃう。したらなんか、ワイバーン、怯えてない?
「ちゃんと伏せ字で話しているではないか。これ以上つつくとあとが面倒だ。そのくらいにしておけ」
「あー、もう、魔族ってのは……」
私の苛立ち、わかってくれるよね。でもまぁ、辺見くんの言うことももっともだわ。放送禁止用語は避けなきゃ。
でもってだけど、私はこのワイバーンと前世では会っているらしい。知己の間柄であれば、自己紹介はしないよね、そりゃあさ。
「コジマよ。そのあたりはどうあれ、再びまみえたこと自体は喜ばしい。再び殺す機会があるわけだからな」
「誰が小嶋よ?」
……ソレ、忘れよう忘れようと努力している、忌まわしい名前だと言うのに。
「戦士のアーデルハイトは息災か?
そこにいるのか?」
「……いるわよ。セバスチャンもサクラもね」
くっそ、このワイバーンの頭の中、私たちは前世の名前のままでアップデートされていないでやんの。で、一体全体、アンタ、何歳?
「勇者のパーティーが揃い、お前の転生した世界の軍人もいるということだな。それでいて征服ではないと言うなら、その真意を証明する義務はお前たちにある。その証明がされないなら、我々はどれほどの犠牲を払ってでもお前たちを排除せねばならない」
「変わらぬ知略が嬉しいぞ、上将ワイバーン『謀略のアウレール』よ」
あ、この人、そんな名前だったんだ。
あとがき
やれやれw
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