第5話 罠
歩きだしてすぐに道は、いや道なんかじゃなく、岩と大石の間を縫う隙間はどんどん急斜面になった。雨が降ると、きっとここは川底だ。
狭くて周囲が峻険というのは魔王城からの見張りからも見えないということで良いことなんだけど……。
当然、ものごとはそううまくは行かなかった。
突然道が開け、広々とした空間が現れたんだ。
しかも、その空間、畑の畝みたいに土地が整地されていてその畝が2mくらいの高さだ。そして、畝の向きは低い方から高い方に向かっている。
つまり、魔王城から見下ろしたら、死角がまったくない。
そして、畝の底を魔王城に向けて上っていたら、岩を転がされても水を流されても逃げ場がなくてやられてしまう。かといって、畝の上を歩けば、こちらも逃げ場がなくて、火炎魔法とかで一薙ぎされただけで炭になっちゃう。
つまり、すっごく嫌な地形だ。単にだだっ広い方が、逃げ場があってまだいいくらいだ。
どうやったら、こんな意地悪なの思いつくんだろ。
「……誘い込まれたな」
武闘家がそうつぶやき、賢者がもうしわけなさそうに下を向く。
私にも、武闘家と賢者の会話の言外の意味がわかった。おそらくは私たちが登ってきた道を、魔族の部隊が跡をつけてきている。私たちはこの罠の空間に出ていくか、後ろから追い立てられるか、どちらかしかない。
後ろからの魔族の部隊と戦うことはできるけど、一番採っちゃいけない案だろうな。逃げ場を失ったまま戦ったら、ジリ貧になるだけだからだ。なんせ、私たちには補給がないんだから。
で……。
元魔王、アンタだけ、なんか嬉しそうね。
「まぁ、当然だ。
余が討たれたのち、残された魔族が魔王城になにも改良しなかったと考える方が甘い」
「んなこた、わかってる。なんか手はないの?」
私の質問に、元魔王はため息をついて賢者に向き直った。
「賢者。体内に魔素は溜まったか?」
「まだ4分の1程度。100%行くには一寝入り8時間は必要よ。魔王、あなたはどのくらい?」
「1割程度だな。賢者より体内に貯められる魔素が多いだけに、なかなか進まぬ。まぁ、魔素の効率吸収のアイテムも持っていないからな。
だが、魔王としての魔法を使ってみせねば、追ってきている魔族どもも余が先代の魔王だと信用するまい。さて、どうしたものか……」
「勇者、戦士、武闘家の3人が戦うことはできるけど、元魔王としては魔族に犠牲が出るのは避けたいよね?」
「当然だ」
私の提案は、当然のように却下。
ま、私も本気で言ってはいないけれど。アルミラージの二の舞いは避けたいもんね。
「ケイディ、なんかいい案ない?」
「ない」
……せっかく聞いてあげたのに、無愛想ね、ケイディ。そういうの、嫌われちゃうんだよ。
「身を隠す魔法とかないの?」
「人間に対してではなく、魔族に対してか?」
なんか、質問すると質問で返されるね。あー、もー、言いたいことはわかったけどさ。
「なら、もう、追い詰められる前にこちらから出ていくかないわね。その方がまだ話し合いになるでしょ」
今まで黙っていた戦士の橙香の言葉に、私たちは顔を見合わせ、元魔王だけが大きく頷いた。
てか、元魔王の辺見くん、君のその自信はどこから湧いてくるのかな?
あとがき
この斜面に対して縦の空堀、山城に一般的な防御施設ですが、本当に嫌なもんですw
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