第4話 魔族の誇り


「じゃあ、ニワトリとか犬とか猫がいるの?」

「厳密には向こうの世界の動物とは異なるが、こちらにも相当する動物はいるぞ」

 ふーん。そうなんだ……。


「でもさ、向こうの世界の生き物に近いのがいたとしても、魔族というか、魔素を扱える生き物には生存競争で負けちゃうんじゃないの?」

 真っ先に疑問に感じたそれを、私は魔王に聞いた。ライオンだって、魔法にゃ勝てないよね、きっと。


「勇者は生き物の力を甘く見ている。現に、向こうの世界でも、昆虫という他の生物からしたらまったく違うルールで生きている生物が一大勢力となっている。それと同じだ。

 その昆虫だって、脊椎動物に食われまくりではないか」

「ふーん。昆虫って、違うルールで生きているんだ……」

 私の疑いの声に、魔王は胸を張って答える。


「昆虫以外で、身体が3つに分かれ、3対の足を持ち、2対の羽を持つ生物がいるか?

 そして、その特徴で括られる一群なのに、水陸空すべてに存在し、適応しているではないか」

 なるほど。魔素を扱えない生き物でも、うまく環境と折り合いが付けば生きていけるんだ……。


「じゃあ、魔族は魔族以外を食べるのね?」

「魔族以外に魔族が食われることもある。魔族以外が魔族以外を食べるのも当たり前だ。まぁ、例外もあるが……」

「例外とは?」

 私、オウム返しに聞いたわ。

 だって、引っかかる言い方じゃない。


「総じて魔族は誇り高い。誇り高いからこそ戦いになる。そして、格上を倒したときは、その力を自らのものにするために……」

「食べるのね?」

「そういうこともある、という話だ」

 うーん、そう話している魔王の顔を見てみたいもんだけど、見張りの任務は

疎かにできないよね。私たち、背中合わせに立っているけど、向き合って互いの背中方向を見張るという形でも良かったかもしれない。


「じゃあ、私がアルミラージを食べたのはいけなくても、ドラゴンを食べるのなら……」

「そうだな、狩りの対象として殺して食うのと、誇りある戦いの末に自らをドラゴンに近づけたいからその身をとりこむ。これには天と地ほどの差がある」

 ……なるほど。

 少しは魔族のこと、わかった気がする。


 私がアルミラージを食べたということを、魔族がどう考えるか、もね。

 魔族以外の者が弱い魔族を狩って食うってのは、誇り高い魔族全体への侮辱なんだ。殺し合っていても、魔族は魔族としての一体感があるからだ。

 人間だって、人食い熊は絶対に許さない。

 これは味を覚えた動物がさらに人間を襲うのを止めるって意味が大きいけど、絶対それだけじゃない。人類の誇りが傷つけられたっていう側面は絶対無視できない。


「魔王。

 なんか、ごめんね」

 思わず、私の口からそんな言葉が漏れた。

「私からしたらウサギを狩って食べるということが、魔族にとっては違う意味だったんだね」

「……」

 元魔王からの返答はない。


 その間に、ケイディと戦士と武闘家が犬型ロボットを起動し、その背に荷物を積み終わっていた。近くをうろうろと見て回っていた賢者も戻ってくる。

 全員が武器や防具の装備も終えていた。


「そろそろ行くわよ、勇者。

 西から時計回りに魔王城に向かって登ろう」

 賢者の声に、私、頷いた。なるほど、日陰を選んで、明るいところで目立つのを避けるのね。

 私たちは、足早に歩きだす。



「……過ぎたことだ」

 元魔王の辺見くんの返事は、そのときになってようやく返された。



あとがき

少し和解しましたw

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