第2話 魔族


 ケイディの問いに、元魔王の辺見くんは答える。

「魔族は、人間とは価値観が違う。魔王の交代は、双方の実力の優劣によるものだ。その比技なしに交代しても、真の魔王とは見做されぬ。ここまでは人間も同じ思考になるかもしれぬ。だがな、ここからが違う。

 人間はこう考えるだろう。王になって安泰なのだから、今さら前王とは戦わずに済ませたいとな。その、リスクを避けようという合理性については、魔族としてもわからぬでもない。

 だが、魔族はそうは考えぬ。なぜなら、魔族はその性として戦いを好むからだ。前王ほどの強者であれば、戦わずにはいられぬ。身を焦がす戦いへの熱望は、他のなにものによって満たされぬ。石など落として殺しても、それは一生の乾きを生むだけだ」

 ……怖いこと言っているなぁ。

 そんなに殺し合いが好きなのかな、魔族。よくもまぁ、滅びちゃわないもんだ。


「魔族にとって、禅譲ってのは、最大の楽しみを放棄させられる悔しさ以外のなにものでもないのか……」

 ケイディがつぶやく。「ぜんじょー」ってのがなにかはわからないけど、たぶん、ケイディの言葉には全面的に賛成だよ。

 

「ということは、これは自然の落石だってことね。でもね、これが自然の落石だとすると、それはそれで怖い。この崖下見てよ。他に落石ないじゃない。ここは道や畑ではないし、落石を片付ける意味もないでしょ。

 ということは、私たちがこの世界に来てすぐに、ここで初めての落石がおきたってことになる。私はそんな偶然、絶対に信じない」

 賢者の言葉に、魔王以外の全員が頷いた。


 実際、これは言葉だけではなかった。みんなちらちらと上を見て、警戒を怠っていない。あんな大岩が落ちてきたら、戦士の武器も武闘家の体力も役には立たない。ケイディの銃だって、だ。対抗できるとしたら、魔法か聖剣タップファーカイトだけだろう。

 つまりは、魔素を貯めている今時点では逃げるしかないんだ。

 でもって、聖剣タップファーカイトを持つ私だって、上ばかり見ちゃいられないよ。


「いっそのことだけど、このままこの崖をまっすぐ登ってみる?

 石を落とした仕掛けが見れるかもしれないし、魔王城の魔族も道じゃなくて崖を登ってくるとは思わないでしょ?」

 私、そう提案してみたけど、ケイディは首を横に振った。


「魔王。魔王城には、落石による攻撃手段があるのではないか?

 城塞としては、当然の設備だ。そこからの攻撃ということを、魔王は認めたくないのではないか?」

 あ、そっか。

 いい気になって崖を登りだしたところにもう1回攻撃を食らったら、ボーリングのストライクになってまうもんね。頭の中で、「かこーん」って音が聞こえた気がするよ。


「魔王。逆に魔族らしくなく、直接の戦いではなく相手を陥れるような戦い方を好む魔族はいないの?

 いたらそれたけで相手が特定できる」

 ケイディの言葉に連なる賢者の声に、魔王は短い時間とはいえ考え込んだ。


「いなくはない。当然、余はそこまで考えている。だが、そこまで計算高い者であれば、余と深奥の魔界との共倒れを望むはずなのだ。ここで我々を倒す意味はない。認めたい、認めたくないの問題ではない」

 最後は、ケイディに向かって魔王はそう言い切った。




あとがき

好戦的で誇り高い、ステレオタイプの魔族w

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