第三章 魔界にて
第1話 第一印象
私も周りを見回す。
灰色と茶色の世界と見えていたのは間違いなかった。
空は雲が低く、頭の上を押さえつけられているようだ。青空なんか望むべくもない。そして、地面は茶色く、崖と言って良い急勾配で目の前に立ち上がっていた。植物もないわけではないが、あまりにひねこびていて葉の緑色もくすんでいる。
そして、崖の斜面の上は雲に隠れていて、あるはずの魔王城も見えない。
初めて見る魔界は、つくづく愛想がないと思った。
魔界だって日が射すことはあるだろうし、暖かい日だってあるはずだ。だけど、そんな理屈よりも、偏見と言われてもしかたないけど、本当に魔界という言葉のイメージどおりの魔界だ。殺風景だし肌寒い。
武闘家と賢者、2人の顔色が悪い。きっと、前世を思い出しているんだろう。ここまで遥々旅をしてきたはずだ。こんないきなり魔王城の根本に着くなんてご都合主義なこと、絶対になかったはずなんだから。
対して、私と戦士、そしてケイディは緊張はしていても恐れはない。だって、前世のことを思い出せていないから、崖は崖に過ぎないし、それだけ見て怖いってのはないよね。おまけに、崖ったって、下から見上げているんだもん。これが上から落ちるかもなんて思いながら見下ろしていたら怖いだろうけど。
でもって、魔王の辺見くんだけは、さっきまでとは別人のようだ。
眼なんか、きらきらしている。これで魔素が貯まって、自在に魔法が使えるようになったらぎらぎら光るのかもしれない。
だけど、Tシャツ1枚で寒くないのかね。
なんて思っていたら、いきなりの衝撃。
武闘家が横から体当りしてきたんだ。
「逃げろ!」
武闘家の声に、「
視界の隅で、横っ飛びに跳躍する戦士と、銃を抱えて前転に転がり抜けるケイディが見えた。
私、ごろごろと転がって、それが止まらないうちに地響きで身体が浮き上がった。で、ぺしゃんって落ちて、ようやく視線があちこちに向いた。四つん這いのままだったけれど。
私がいたところに、私の身長と同じぐらいの大岩が鎮座ましましてた。武闘家が体当りしてくれなかったら、私、今ごろぺっちゃんこだった。私、改めて血の気が引いた。魔界に来て3分も経たないうちに死にかけるって、怖すぎだよ、ここ。
なのに、魔王ったら「ふーむ」とか顎に手を当てて唸っている。
「どういうことよ?
これって、わざとなの?
だいたいね、自分の住処ならきちんと管理しなさいよっ!」
「だれかの故意か、単なる自然現象かということであれば……、うーむ」
「魔王のくせに、自分ちのことなのに、わからないの?」
私の声がつんけんしちゃうの、わかって欲しい。死にかけてすぐだもん、冷静じゃいられないよ。
「悪意を持って直接手を下したのであれば、残留思念や魔素の残留から想像はつく。だが、ブービートラップで落とされたものであれば、思考の痕跡は残らない。だから、わかりようがないのだ」
「前にも聞いたが、現魔王が元魔王を邪魔と感じることはないのか?」
そう聞いたのはケイディ。
そうよね、気を回すわよね、普通。
そのケイディの背中はすでに泥だらけだ。でも、抱え込んでいる銃はぴかぴかなまま。とっさのときに武器を守り抜くって、ひょっとしてケイディ、イヤミなスパイだとしか思っていなかったけど、優秀な兵士だったりもするのかもしれない。
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