第34話 魔界の習慣4


 賢者がついに白状した。

「勇者、ガラスの棺を粉々に壊して、その上でご飯食べたよね」

「それ、悪いことなの?

 おし◯ことう◯ちしたとかに比べたら、どこが悪いのかわからない」

「勇者、アンタ、女の子でしょ。少しは慎みなさい」

 いや、本当にわからないんだけど。


 賢者は露骨にため息をついた。

「魔界に渡って、私たちがどう戦い続けたか……、それもまぁ、思い出せていないのよね?」

「うん、憶えていない」

「魔界でなにも食べるものがなかった私たちは、旅を続けるために食べられそうな下級魔族を……。そのとき、私は止めたのに、アンタ、その場でアルミラージ焼いて食べたのよ」

「アルミラージってなに?」

「角の生えたウサギ」

「ならいいじゃん」

 えっ、なんで、しーんとするのよ?


「だって、『腹が減っては戦ができぬ』と言うじゃん。ガラスの棺を壊すという作戦が終わって、戦いに勝ってご飯食べてなにが悪いん?

 ましてウサギなんか、世界中で食べているでしょ」

 私の言葉に、元魔王の辺見くんは、わなわなと震えた。


「……勇者は、墓地で誰かの墓石ぶっ壊して、その上でバーベキューするのか?」

「……あ、それはしない」

 あ、そういうこと?

 そう言われると、なんか急に嫌な気分になってきた。それはうん、たしかに極悪非道だわ。


「勇者、お前は余の大切なものを壊し、その上で余の大切な仲間を焼いて食ったのだ。

 気がついていないのか、勇者?

 魔族はどれほど下級なものであっても言葉を話す。高校のお前のクラスに2等スライムがいただろう?」

 うん、いた。石化、バーサク、カエルの女子3人組。


「……そうは言うけど、『2等スライムなど、大義の前には使い捨てぞ』とか前に言っていたよね、魔王?」

「人間は組織を作る。そして、人間が人間を使い捨てにすることもあろう。だが、食うか?」

「……あっ、そっか」

 そうだね、それとこれとは話が違うね、うん。

 私、魔王から見たら、墓地で誰かの墓石ぶっ壊して、その上で人肉バーベキューやった人なのか……。マジで絵柄がヤバいな。

 こりゃあ、地獄に落ちろって言われても仕方ない。


「……そのアルミラージも、どこかで人間に転生しているかもしれないのだ」

 魔王、それもまぁ、アンタの言うとおりかも。

「でもさ、食べられそうな下級魔族は、パーティー全員で食べていたんだよね?

 それに、人間に転生する可能性はあっても、ブタや牛だって可愛いけど食べちゃうよね?

 つまり、みんなその問題は抱えているじゃん?」

 私、必死で頭を働かせて反論してみた。


「そうだな。

 お前からしてみれば、戦に勝ち、その場で祝いがてら飯を食っただけだ。その一つ一つは責められるに値しないかもしれない。だが、やられた方が、お前の理屈で納得するはずがなかろう?」

 ……うん。そりゃそーだ。


「だけど、それで魔王に勝てた。あざとく非道く、それが必要だったのでは?」

 橙香、弁護してくれるの?

「私はあとが怖いから反対した。挑発のやり過ぎは逆効果」

 ……そっか。


「魔王、ごめんなさい。

 謝る。

 そして、これからの戦いに、私、全面的に協力する」

「……わかった」

 魔王の辺見くんは、そう頷いた。



あとがき

ようやく協力体制が……

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