第33話 魔界の習慣3
「勇者の質問はさておき……。
繰り返すが、死後の世界は、純粋な魔素のエネルギーの世界だ。個は光の塊と姿を変え、融合していく。そして、その融合で満たされた者から転生していくのだ。だから、慕われる者は死後、光を通す素材の棺に収められ、転生が早からんことを祈られるのだ」
……自分で自分のことを慕われているとか言っちゃうんだとは思ったけれど。
でも、ガラスの棺の意味と、それを誇りに思うことは私にもわかった。でも、説明されないとわからないよ、そんなん。
「じゃあさ、そこまで転生を願われたのなら、本当ならば魔界で転生するはずだったんじゃないの?
なんで、この世界に生まれてきたの?」
「勇者、お前に棺を壊されたからだ。
そう言いきりたいところだが、その質問はそのままお前に返そう。余を倒したお前が、なぜ魔界で転生しておのれの征服した土地を守らない?」
「そんなの、わからない。生まれる前のことというより、前世で死んでから今世で生まれるまでの間のことなんか、誰もわからないんじゃないの?」
質問に質問で返されて、魔王も私と同じで、わからないことはわからないんだと思った。
「なんらかの上位の存在がいて、魔界もこの世界も統べていると考えるしかないのかな?」
と、これは賢者の質問。だけど誰もなにも答えない。
こんなんもう、誰にもわからない疑問だよ。運命と言おうが、上位の存在と言おうが、摂理とか言っても、なんの説明にはならないよね。だって証拠がないもん。
それこそ、言うだけならタダって話になっちゃう。
「余は前世の生を賭けて魔界を統一し、すべての魔族から慕われた。その証を勇者に叩き壊され、すべての者たちに対して情けなく申しわけが立たず、ただただ報復を誓った。そこをお前に乗じられたのだ」
「そっか。
そんな魔王の前で、服を脱いでみせた武闘家が怒りを買うのは当然だよね」
私、そんな感想を言ったら、全員から睨まれた。
「な、なによ。
元を糺せば、魔界を統一した勢いで私たちの世界に攻め入ってきたのが原因じゃない。非力な私たちが、人質を取るとかいろいろ考えた挙げ句に、ようやく勝つ方法を見つけたのよ。責められる筋合いはないわ」
「そこを責めているんじゃない。今、俺に責任転嫁しただろう?」
武闘家の宇尾くんが、そう私を問い詰めてきた。
「だって、武闘家だって、ガラスの棺なら『死後も筋肉を見せつけられる』とか言ったんでしょ?
私ばかりが酷いことしてないよ」
「武闘家の言葉に悪意はない。変態だとは思うが……。
だが勇者、キサマは悪意をもってそれをやったんだ」
魔王、どうあっても、私を責める気?
「そんなこと、これっぽっちも考えていないったら。
あー、はいはい、私が悪かったですっ。これでいい?
でも、ガラスの棺を壊したことは謝らないよ。だって聞いた限りで、これは勝つための作戦じゃん」
「それはそうなんだけど、それはわかっているんだけど……」
「今度はなによ、賢者?」
賢者、視線を落として首を横にぶんぶんと振った。
「あのね、勝つための作戦はいいのよ。
でもね、勇者、アンタ……」
だから、私がなにをした?
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