第32話 魔界の習慣2


 元魔王は説明を続ける。

「死後の世界は、純粋な魔素のエネルギーの世界だ。光の塊と思えばいい。だから、誰かを好きだということであれば、死後は光の塊同士で融合し、一つのものになれる。そして、限りなく巨大な光の塊になっていく。物理的制約がなく、独占もできぬゆえに、三角関係などもそこには生じない。

 そして、その融合で満たされた者から転生していくのだ」

「誰もみんなキライな場合はどうなるの?」

 私の問いに、魔王は露骨に嫌な顔をした。


 なんでいつも、私がなにか言うとそういう顔をするのかな?

 それとも今回の話でこの質問、教義でタブーなのかな?

 それともなんか思い出した?


「勇者らしい質問だが、考えても見るがいい。

 誰をも嫌い、誰とも一つになりたいと思わなければ、それは孤独な地獄を意味する。そこまで誰をも嫌う者も確実にいはするし、そういう者は、ただただ己を形作る魔素の散逸を眺めていること以外はできぬ」

「……散逸し切るとは、消失ということ?」

「そうだ」

 魔王の返事は短い。そして、怖い。


「となると、魔界では嫌なヤツは転生できなくて、いなくなっているってこと?」

「魔素は広大無辺にして、星から生まれてくるもの。したがって、新たな生命は生まれ続け、良い者も良くない者も生まれ続けているのだ」

「ふーん。でも、良い者は生まれるし転生もするけど、良くない者は生まれるけど転生しないんだよね。ということは、良くない者が生まれる確率が高いのかな?」

 我ながら嫌なことを聞いている自覚があったけど、私、聞かずにいられなかった。


「魔学上もそこが問題になった。さまざまな仮説があり、魔の根幹を揺るがすほどの議論となった。だが、今は結論が出ている」

「どんなことよ?」

 私の問いに、魔王の顔が曇った。


 元魔王の辺見くん、見た目だけはいいから、こういう感じに憂いを帯びるとちょっと視線を離せなくなる。

 でもね、大切な問題だから、私は答えをしっかりと聞きたいな。


「勇者よ。

 前世でお前が戦ったとき、魔族でもっとも強いと感じたのは余ではないはずだ」

「……私、憶えていないんだよね。賢者と武闘家、憶えてる?」

 私の問いに、賢者と武闘家は共に頷いた。


「言われてみればだけど、上将ドラゴン『終端のツェツィーリア』と対を成す、上将ヒュドラ『滅尽のゲルリンデ』が一番タチが悪かった」

「そうだな。強いと言うより、タチが悪かったな。正確にイヤなことをしてくる敵だった」

「その上将ヒュドラ『滅尽のゲルリンデ』が、そういう誰もが嫌いな人だったの?」

 賢者と武闘家の言葉に重ねて、私は聞く。


「そうだ。そしてそういう者は、逆境にあっても生き延びていく可能性が高いのだ。なにかあって他の者が死に絶えても、そういう者たちが魔族の命脈を繋いでいく。そのために彼らは生まれる」

「天災が起きたときとかでも、生き延びる率が高い性格ってあるのよね」

 そうなん、賢者?

 まぁ、地震とかのときでも、人混みにいないだけで助かる率は高いだろうけどね。

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