第35話 同行


 結局、私の記憶はケイディの国の軍事基地では戻らなかった。

 でも、収穫はあった。

 聖剣タップファーカイトがどういうものか、ちょっとだけでも見れたのは私にとって大きな自信になった。だって、どんな威力があっても、それを見ることができないってのは不安なもんなんだよ。


 賢者と魔王は魔法は使えなかったけど、その片鱗を見せることはできた。戦士の橙香は卓越した強さを見せつけた。武闘家の宇尾くんは、強いんだか弱いんだかわからないけど、それでも不思議と負けないという不思議な姿を見せてくれた。

 これでケイディの国の軍に、十分に情報は提供しただろう。

 同時に、私たちは魔界でも生きていけるよう、最低限のサバイバル技術を得ることができた。


 これで私たちは出発できる。

 武器や防具、食料にサバイバルグッズも用意されている。あとは、聖剣タップファーカイトで強力な磁場との干渉を起こさせて、魔界までの空間の通行口を斬り開くだけだ。


 私たちは、出発前夜の夕食で、たくさんの野菜を食べることにした。

 軍隊のレーションは大量に持ち込むけど、そしてその輸送のための4つ足ロボットとそのためのバッテリーも持ち込むけど、それも充電できなければ1週間ももたない。もう1週間分の食料は自分たちで担ぐとして、2週間分の食料がせいぜい持ち込める量だ。

 飲料水に至っては、行った先で汲んで浄化して飲むしかない。水はあまりに重く、そして体積を節約することができないからだ。

 だから、鮮度の良い水気とミネラルとビタミンたっぷりの野菜を、食べ納めに食べ放題に食べたかったんだ。


 その食事の席にやってきたケイディが、ぽつりと漏らした。

「勇者。態度を保留していたが……。

 やはり、魔界には私も同行しよう」

「えっ、来るの!?」

 そうびっくりした声を上げたのは橙香だ。


 私はケイディに提案した側だし、「もしかしたら」と思っていたので驚きはしなかったけど、でも、ケイディが覚悟を決めたこと自体に感動してしまった。

 だって、ケイディにとっては前世の因縁みたいなものもない。だから、頑張り過ぎとも言えるんだ。


「来るのはいいが、戦えるのか?」

 そう聞いたのは武闘家の宇尾くんだ。

「魔界に銃を持ち込むことはできるだろうが、魔族を倒すには大口径の銃とたくさんの弾丸が必要となる。魔王がいるから不要な戦いは避けられるかもしれないが、それだって確実じゃない。弾丸の補給はできないんだし、ましてや深奥の魔界の魔族には、銃自体が通用しないかもしれないんだぞ」

 ……うん、そのとおりだ。


「銃弾が効かないなら、戦士の長巻の刃だって通用しないだろう?

 その刃に魔法をかけて通用させるのであれば、銃弾にだって同じ魔法がかけられるはずだ」

「それはそうだけど……。

 だけど、弾丸の補給はどうする気?

 弾をばらまいても報われにくい、厳しい世界だよ」

 この質問は賢者だ。


「AKM+1を持っていく」

「ケイディの国の敵国の銃じゃん」

 武闘家が驚きの声を上げた。

 ふーん、そうなんだ。私、銃のことなんか全然わからないけど、そういうの、アリなん? 軍のくせに密輸でもするん?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る