第20話 勇者の装備


「おかしいじゃないっ!?

 なんで私には、こんなものしか用意されていないのよっ?

 ケイディ、アンタ私に恨みでもあるの?」

「……ないと言ったら嘘になる」

「あるのね?」

「なくはない」

 逃げるんじゃないわよっ!


「ケイディっ!」

「公私の混同はしていない。カスタムするならリクエストだって受けるぞ」

 ぽたぽた。

 私の頬を涙が伝わり、顎から床に落ちていた。あ、鳴き真似じゃない。私、そう自覚した。


「じゃあ、なんで私には竹の物差しなのか、説明しなさいよっ!」

「意味がないからだ。鋼鉄の剣など用意したところで、その鋼鉄の剣が斬るわけではないだろう?

 あくまで聖剣タップファーカイトは、聖剣タップファーカイト本体が斬るのであって、媒介物が斬るわけではない。そもそも、その媒介物よりも遥かに長大なものになるではないか。違うか?」

「それはそうだけど……」

 私はしぶしぶ頷く。

 でも、情けなくて涙は止まらない。


「なら、勇者が振り回すのについてこれて、あとは軽ければ軽いほど聖剣タップファーカイトの振りも早くなる。こうなれば、この竹の物差しが最適ではないか。徒歩での旅に荷物を持っていないのと同じほどの軽さで、錆びたりする心配もなく、誤って自傷する危険もない。

 鞘に納める必要もないから、とっさのときにもすぐに戦える。しかもコストが安いから、5本ぐらい持っていってもいいぞ。それでも、他の者たちの100分の1くらいしかコストが掛からん」

「ケイディ、よくもまぁ、ぺらぺらと出るわね。そんなに私に物差し持って旅させたい?」

 涙が乾ききらない目で、ジト目で私は聞いた。


「あまりに……、というのであれば、ちょっといい柄をつけてカスタムしてもいいぞ」

「どんな柄よ?」

「チタンの柄でも付けるか?

 もちろん、ローレット加工して」

 頭の中で、その姿を想像した私、さらに「うっ」となって涙がこみ上げてきた。


「それって、どう見てもライトセーバーの小学生版じゃない?

 掃除サボって、バカな男子が遊ぶヤツ。みんなカッコイイ中で、なんで私だけが……」

「じゃあ、どういうのならいいんだ?」

 そう聞いてくるケイディの声、ちょっといらいらしている。


 アンタねぇ、物差しが嫌だって、どーしてわかってくれないのよっ!?

 それに、「どういうのが」なんて、そんなのわかるわけないじゃん。私、前世を思い出せていないんだからさ。


「余が憶えている範囲だが……」

 そこで、魔王の辺見くんが口を挟んだ。

 アンタ、声聞くのは久しぶりだね。あんまり静かなんで、そういうキャラに変更したのかと思っていたよ。


「勇者の聖剣タップファーカイトの姿は、割りと普通の剣の形だった。日本刀のような片刃で反りがある形ではなかったし……。そうだ、あれはツヴァイヘンダーのような形をしていた」

「両手剣のか?」

「ああ、そうだ。柄は長く、リカッソがついていて、地味にいやらしい攻撃をしてきたな。斬り込んできて、リカッソのハンドガードの突起を突き立てて余の身体に刃を固定してから聖剣タップファーカイトを伸ばすとか。これをやられると、攻撃の先読みができなかった……」

「単純に聖剣タップファーカイトの攻撃なら、先読みできたのか?」

「ああ」

「……この勇者にそんな戦い方ができたのか?」

 元魔王とケイディ、なんで今度はアンタらでわかり合って、私に失礼なこと言っているのよ?



あとがき

ハブられるなぁ、勇者ちゃんw

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