第15話 到着
食っちゃ寝して、うるさいエンジン音にため息をつき、ひたすらのろのろとしか進まないスマホの時計表示を見る。
これを何回繰り返しただろう?
ケイディからの最初のサンドイッチ以降の食事は、文字どおり喉を通らなかった。だって美味しくないんだもん。
なにを食べても味があるんだかないんだかわからないし、ぱさぱさしているし、色合いも薄い。つまり、食材の味が薄いうえに、美味しそうにすら見えないんだ。
チョコレートに見えていたものが、蝋かなんかの塊みたいな味だったときには私、もうそれを床に投げつけたくて仕方なかった。
帰りの時は、絶対自分でなんか持ち込もうって決心したわ。
そんなこんなで……。
私だけじゃない。みんなどんどん元気がなくなった。
武闘家の宇尾くんと元魔王の辺見くん、2人揃って、虚ろな眼差しで檻に閉じ込められたクマみたいに飛行機の中をうろうろと歩き回ってはため息をついた。せめて、外が見える窓が欲しいって。
操縦士の人は、よくもまあ辛抱できているもんだと思うな。私だったら、我慢できなくて何処かに降りちゃいそうだ。で、美味しいもの食べて、お風呂入って、広いベッドで一泊して、それからまた飛び立つよ。
せめて、なんか美味しい飲み物が欲しい。薄いコーヒーもコーラも飲み飽きた。あとは変な炭酸水しかないって、どんな拷問よ。冷たい単なる水が飲みたい。
ケイディ、アンタ、感謝しなさいよ。これで私たちが出発前にお蕎麦とかおうどん食べていなかったら、暴動おこしていたからね。
「あと1時間だ。ESTA取得が不要なのは、特別ゲストだからな」
ケイディが飛行機の前の方からやってきて、恩着せがましく言う。そのくらいじゃ私、恩義なんか感じないからねっ。そもそもその「えすた」とやらがなにか、私、わかっていないし。
「……なんか、美味しいもの食べたい。フレッシュなもの飲みたい。このままだと死ぬ」
そう言いながらどんよりした視線を向けると、ケイディ、私たちの顔を順繰りに見て、「たった11時間で。……これだから日本人は」ってつぶやいた。
アンタ、それ2回目だからね。
次言ったら、許さないから。私たち、アンタより繊細なの。アンタらみたいに、大雑把にできていないのよっ。
それからのフライトはもう、私の記憶には残っていない。
気がついたらケイディに、「着陸だからベルトをしろ!」って耳元で叫ばれていて、仕方なくシートベルトをした。
耳が痛くなって、エンジンの音が低くなって、呆れるほど長く降下を続けて、ついに車輪が大地を噛んだ。
激しく揺れる機内。吠えるエンジンの音。きっと逆噴射とかしているに違いない。でも、私、疲れすぎていて他の国に来たなんて感動はどこかへ行っちゃったよ。
地上を走る飛行機の、タイヤが転がるごとごととした感触を全身に受けること10分、ようやく止まって、エンジン音も小さくなった。
そして、後部ハッチが開き、白い地面が見えた。
私、思わず駆け出していた。ここから開放されるなら、もうなんでもどこでもいい。
だけど、外で見えたのは倉庫のような建物、滑走路と白い大地、それを取り囲む山、青い空だけだった。そして、そのすべてが乾ききって殺風景だ。
砂漠化した安曇野かな、ここは!?
あとがき
窓のない輸送機で12時間のフライト。
もうへろへろ……
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