第14話 輸送機


 食事のあと、車は基地の中に入った。

 一歩踏み込んだら、ここはもう日本ではない。


「これからすぐに輸送機に乗ってもらう。旅客機ではないからCAはいないが、広々としているぞ」

 ケイディにそう言われて、後部ハッチから私たちは乗り込む。

 それと同時に、ジェットエンジンの音が響きだした。


 ああ、この風景、映画とかでよく見るやつだ。床にはレールが敷かれているし、壁際には折りたたみ椅子が並んでいる。

 で、この後部ハッチから飛び降りたり、落っこちたりするんだよね。


 ケイディが再び声を上げる。

「アメニティは最小限だから、寝ていけ。時差もあるから、その方があとが楽だぞ」

 そうか。

 言われて気がついた。時差があるんだ。だけど、正直なところ、体験したことがないので時差ってのがわからない。ああ、頭では理解しているよ。でも、体感するってのはちょっと違うじゃん。


「……寝る前にトイレ」

 そう橙香がつぶやき、私たちは全員でそれに同意した。

「離陸が終わってからにしろ」

 ……なんかケイディ、アンタ、命令口調になっていませんか?

 まぁ、仕方ない。

 お蕎麦とおうどんでは頑張ったから、ここでは折れてあげよう。


 毛布を出してもらって、壁際の椅子を広げて私たちは横になった。

 飛行機に乗ったのは始めてだけど、予想していたのよりも遥かにうるさい。

 これじゃ、サービスで映画を上映されても、煩くて見ていられない。

 それこそ耳栓して寝るしかない。

 きっと旅客機は別世界なんだろうな。広い空間があるからエコノミークラス症候群にはならないと思うけど、いいところはそれだけだよ……。



 目が覚めたら、ケイディから紙袋を放り投げられた。相変わらず、エンジン音がうるさい。

 受け止めて中を見たら、サンドイッチ。うーん、作りが雑だな。挟まれているのは鶏肉だろうか。

 ケイディは、ポットから紙コップに、コーヒーも注いでくれた。


「今、どのあたり?」

「そろそろ半分を過ぎる」

「……遠いのね、ケイディの国って」

 私の感想にケイディは笑った。


「地球が大きいんだ」

「そっか」

 そう言いながら、私、サンドイッチを口に含む。

 曲がりなりにもサンドイッチはサンドイッチの味がした。


「輸送機の貸し切りってさ、結構な経費がかかっているんだよね?」

「ああ。すごいぞ。それだけ我々は、勇者一行に期待しているんだ」

「ふーん。ならさ……」

 これはもう、私の寝ぼけた頭からの単なる思いつきだ。


「ケイディ、アンタも私たちと一緒に魔界に行く?」

「行ってみたい気もするが……」

「監視ができて安心でしょ。もっとも、生命の保証はできないけど。魔界で現代兵器が役に立つかわからないけれど、そういうのって魔界に持ち込んだとしても、使い方はケイディしかわからないんだよね」

 私の提案に、ケイディはさらに深く考え込んだ。


「まあ、運なんだけどね。運が良ければケイディ、魔界へ行ったあとはうんと偉くなれるかもしれない。逆に、見ちゃいけないものを見ちゃって幽閉されるかもしれない。どっちになるかは本当に運次第だろうから無理には勧めないけれど……」

「まだまだ到着までは時間がかかる。私も考える時間がまだあるということだ」

「そうだね」

「食ったら寝ろ。寝られなくても寝ろ。またな」

 そう言ってケイディは立ち上がる。

 うん、案外いい案だったかも。

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