第13話 主導権争い
で……。
私たち、ケイディの国の空軍基地のある町まで、差し向けられたワゴン車で行く。
基地にそのまま入る予定だから、学校側がマイクロバスを用意するとかという話にはならなかったんだ。まぁ、軍の基地だもんね。どんな車でもすいすい入れるなんてことはないよね。
「基地に入る前に、日本の美味しいもの食べておきたいなー」
って私の提案に、全員が頷いた。運転しているケイディの部下と助手席に座っているケイディ以外は。
「ねぇ、ケイディ。このあと魔界に行ったら、もう、お蕎麦とかおうどんとか食べられないじゃん。もう日本には戻れない可能性もあるし、食べ納めさせてよ」
私、運転席と助手席の間から顔を出して、ケイディに頼んでみた。
なのに……。
「ダメだ」
ケイディの返事はつれない。
「……なんでよ?」
私の声が低くなっちゃうのも仕方ないよね。
「今の我々の構成は、人目につきすぎる。厄介事はごめんだ」
……ひょっとして、もう私たちを捕虜にしたつもりにでもなっているのかな?
「ねぇ、ケイディ。私の言うこと、聞いておいた方が良いと思うんだけどなぁ。なにも、おごれだなんて言ってないんだし」
「……聖剣タップファーカイトを盾に、我々を脅すつもりか?」
「お蕎麦とかおうどん食べたいってのが、脅しだって言うの?
だから、自腹で食べるって言っているじゃない。こう見えて、私たち、お餞別もらっていて、ご飯ぐらいならお金出せるんですからねっ!」
私がそう言いつのると、ケイディはこれみよがしに大きなため息をついた。
だけど、私も負けない。今のうちに、クセつけとかなきゃ。
「基地に入ったら、どでかいステーキをご馳走してやるから」
私、振り返ってみんなの顔を見たけど、武闘家の宇尾くんと元魔王の辺見くん以外はみんな首を横に振った。
ったく、男ってバカね。これからハンバーガーとステーキばかりの国に行くんだから、その回数はできるだけ減らしておかないと飽きるのに、そこに気が付かないのかな?
「私たち、女の子なの。どでかいステーキじゃ、嬉しくなんかなれない」
「どでかいチョコレート・サンデーもある。それで満足しておけ」
「日曜日チョコレート?
なにそれ?」
「いや、そうじゃなくてな、あの……。ええい、これだから日本人は!」
ケイディは、そう思い切り吐き捨てた。
おい、主語がでかいぞ。
「なによっ?
なにを苛ついているのよっ!?
そういう態度なら、私だって実力を行使しますからねっ」
売り言葉に買い言葉だ。
私も、そう啖呵を切っていた。
「車の中で聖剣タップファーカイトを振り回すなっ!
全員死ぬぞ!」
「そんなことしないわっ!
私、泣くからねっ!
わあわあ泣くからねっ!!
いいの、それで?
ケイディ、アンタ、後悔させてやるからっ!」
そう叫ぶなり、ぐすっぐすっ、って、嗚咽を漏らしだしてやったわ。
「勇者、お前な……」
「うわーーーーーーん!
おうどんが食べたいよう。お蕎麦と合盛りがいいよう。鴨のお汁がいいよう!」
「……涙が出てないぞ」
「うるさいっ!
これから出るのよっ。天ぷらも付けたいよう。ひっくひっく」
「サー、もうめんどくさいから、どこかの店に寄りましょう」
お、ケイディの部下が折れたな。
ケイディがしぶしぶと頷く。
……勝ったぞ。
あとがき
魔王よりうざい勇者です( ー`дー´)キリッ
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