第11話 論破


 結城先生、ケイディに聞いた。

「軍を魔界に進出させることはできない。だから、あなたたち、私たちに行かせて威力偵察させる気ね?」

「……否定はしない」

 そう答えるケイディの声は、苦々しくとも嘘は感じられなかった。つまり、賢者の確認は図星だったのだろう。


「だがな、我々の技術では異世界に行けない。勇者の持つ聖剣タップファーカイトによって、偵察衛星1つを失うようなことになっていてなお、その科学的原理は掴めていない。

 軍事においても、最も重要とも言える偵察を第三者に任せざるをえないこの状況は極めて不本意なのだ」

 ああ、それはわかるわー、私でも。


「だから、協力は惜しまないというのは、お互いの信頼の醸成のためなのだ」

「だけど、私たちが無事帰ったら、その私たちを殺すか監禁するんでしょ?」

 そう聞く賢者に私、横から口を出した。


「その問題は話し合ったよ、賢者。年に何回か、地球上のどこかに雨を降らせることで、ケイディの国と私たちはWin-Winの関係になれるはずって」

「魔界から魔素を持ち帰る前提ね、勇者。でも、それだけじゃ、契約として不完全。私たちが魔界から魔素を定期的に運び込めなかったら、とたんに私たちの命は危機にさらされる」

 あ、そっか。でも……。


「魔素が持ち帰れないなら、私たちは無力だから問題ないんじゃ……」

 と橙香が私の言いたいことを代わりに言ってくれたのに、賢者はばっさりと切り捨てた。

「聖剣タップファーカイトがあるでしょ。これが一番厄介。これがある間はケイディは私たちを信用しきれずに狙うでしょうし、たとえ魔界で聖剣タップファーカイトを失ったとしてもその証拠の提示は難しい。だって、勇者の体内にあるものなんだから。で、だからって、今ここで生体解剖したって、出てこやしないでしょ」

 ……そのとーりだ。まったくそのとーりだ。

 でもって、生体解剖は絶対にイヤ。

 つまり、私の考えた約束は役に立たないのかな……。


「ケイディって言ったわね。魔界に行く前に、あなたたちの国の軍の実験施設で、勇者の力の分析をしなさいよ。私たちだって、聖剣タップファーカイトのことをよくは知らない。一番知っているはずの勇者が、記憶を取り戻していないんだから。未知の力を頼りに魔界に行くほどの勇気を私は持っていないし、ケイディたちも情報を得られれば無条件で排除しなければと考えなくて済むんじゃない?」

「……なるほど。だが、勇者が正直に聖剣タップファーカイトの力を開放するとは思えん」

 う、疑い深いなぁ、ケイディったら、もうっ。

 アンタの疑い深さはもう、病的だよっ!


「だから、それじゃ、私たち自身が魔界に行けないでしょ。私たちも聖剣タップファーカイトの力を知りたい今のタイミングだから、勇者も隠し事ができないのよ」

「その論理はわかるが……」

「それに、聖剣タップファーカイトの解析データは現代物理学に大きな変革をもたらすわ。貴国がそれを独占できるアドバンテージは無視できないでしょうし、それを科学的に再構成できれば、勇者はもう怖くないでしょ?」

 ……賢者、すごい。

 ケイディを言い負かしたぞ。



あとがき

まぁ、言い負かされたフリ、なんでしょうけれど。

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