第7話 取引成立


「貧乏な国が豊かになれば、ケイディの国、それだけでも結構安全にならない?

 貧乏だから、金持ちの国に対していろいろやるんでしょ?」

 だけど、ケイディは私の言葉に首を振った。


「金持ちになったら軍備を増強して、世界征服を企みだす国もあるんだ」

「あたー……」

 私、額に手を当てて天を仰いだ。

 わかりやすい「悪」って、やっぱり世の中にあるんだよねぇ。まぁ、ケイディの国が、「善」からできているとも思わないけれど。


「だが、不法移民などは母国が豊かになれば当然のように減るだろう。そう考えれば、今よりマシということも言えるかもしれない。

 で、どうやって貧乏な国を豊かにするというのかな?」

「この世界は魔素が少なくて、ろくに魔法が使えないって話だった。でも、隣接の魔界に行けば魔法は使い放題。どうやって行くかはまだ賢者に聞いていないけれど、聖剣タップファーカイトはこの世界でも向こうでも有効だった。だから、聖剣タップファーカイトで空間を切れば行けるのかもしれない。で、行った帰りに魔素を持ち帰るようにすれば、魔法で天候を変えられる。

 例えば、サハラ砂漠に5日おきに雨を降らせたら、その周辺の国はみんな食料がとれてとれて、それはもう……」

「サハラを緑化したら、アマゾンが砂漠化するという説もあるぞ」 

「えっ、なんで?

 だめじゃんっ!」

 ケイディの言葉に私、言葉を失った。それが本当だとしたら、なんでこう私はものを知らないかな?


 だけど、ケイディはそのまま続けた。

「地球というのは、それだけ微妙なバランスで保たれているということだ。

 だが……。それでも、その地域地域で致命的干ばつが防止できたりするのはありがたいことだろうな。最低限の収量があるのと全滅では、雲泥の差だ」

「私たち、深奥の魔界を防いだあとも、そこで協力関係は築けないかな?

 ケイディたちにはできないことでしょう?」

「……なるほど」

 ケイディは頷く。


「勇者、私はまだそちらの望む良い返事はできない。だが、この案は上にも諮り、良い結果が出るように取り計らいたい」

「ありがとう」

 私はそう答えて、密かに安堵の息を吐き出した。

 勇者として、パーティーの安全の確保に手は打てたんだ。


「で、今の勇者の言葉だが……」

「なに?」

「『聖剣タップファーカイトで空間を切れば、魔界に行ける』というのは本当か?」

 ああ、それ?

 わかんないけどって、前置きしたじゃん。


「賢者に聞いてみないとわからない。

 前世を思い出しているのは賢者と武闘家と魔王だけなんだ。で、やっぱり頭が良くて知識も持っているのは賢者なんだよ。私と戦士は、前世を思い出せていない」

 そう答えながら、上将ドラゴン『終端のツェツィーリア』はどうだろうって思ったけど、めんどくさくて黙っていた。だって、今世での名前も知らないし、前世の名前はけっこう長いから、文字通りめんどくさくてね。

 それに教室を盗聴していたんなら、ケイディだって当然知っているだろう。そのケイディが確認しないなら、どうでもいいや。


「では、残りの3人をここに連れてこよう。魔王はどうする?」

「魔王もお願い」

 私の答えにケイディは頷いた。



あとがき

……きっと乱暴に連れてくるんだろうなぁw

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