第6話 安全保障


「かなり先走った話になっているな。まぁ、不確定要素が多すぎるし、今、そこまで細かく決める必要はないんじゃないか?」

 あ、ケイディめ、逃げるつもりだな。


「いいえ、戦う前に報酬を含めてきちんと決めておくべき。そうでないと、戦うモチベが湧かない。用済みになったら殺されるのがわかっていたら、敵と手を結んだ方がマシってことになる。

 だからケイディ、逃げないで」

 私、逃げがちなケイディの視線を掴まえて、そう言ってやった。


「では、逆に聞こう。勇者は世界が欲しいか?」

「世界って?」

 そんなこと、唐突に聞かれたってわかんないよ。

「世界」って言ったって、駅前のラーメン屋かもしれないし。タンメンが美味しいんだよね、そこ。ともかく、私の周りの小さな世界なら欲しいけど、全地球みたいな世界だったらいらないし。


「世界とは権力だ」

「……じゃあ、逆に教えて。ケイディたちは、なんでそんなに権力が欲しいの?」

「権力とは、すなわち安全保障だからだ」

「一番強くなれば、周りがビビるってこと?」

 私の問いにケイディは頷いて言う。

「平たく言えばそういう話だ」


 うーーん、そういう話か。

「じゃあ、ケイディたちが私たちに危害を及ぼさないなら、私たちから攻めることはない。これで解決じゃん」

 私、相当にいいこと言ったつもりだったけど、ケイディは首を横に振った。


「勇者。お前の母親が人質にされて、我が国を攻めろと要求された。さあ、勇者としては、自分の母親を見殺しにしてでも攻めることはないと言い切れるか?」

「えっ……、それは……」

 さすがに私、即答できない。

 そうか……、私にそのつもりがなくても、強制されることはありうるんだ。


「そうだろう?

 強大な力は、存在するだけで我々にとっての脅威なのだ」

 そこまで考えなきゃダメなんかー。

 で、そうなると手がない。

 私の家族、パーティみんなの家族、全員を守るなんてできない。かといって、ケイディに「守って」なんて言えないし。


 ああ、だから果てしなく権力というか、力を求めるようになるのか。力を得て、それで得られた豊かさを守るために、さらに力が必要になるわけだもんね。

 でも、これって、ゴールがないマラソンのような気がするよ。1つの民族、1つの国家なんてどっかのスローガンを実現させてさえ、次は内輪揉めが始まるんだもんね。


「困ったなぁ。世界が欲しいっていうケイディたちの考え、わかっちゃったよ」

 つくづくという感じで私が言ったら、ケイディ笑い出した。

「今までは、『欲張りだ』とでも思っていたか?」

「うん」

 私の返答に、ケイディが口の中で「若いな」って呟いたのが聞こえた。


「だけどさ、行き着く先はどうなるん?

 敵になりそうな相手を全部皆殺しにしたあとは、内輪揉めでまた殺し合いでしょ?」

「そんなこと、私にはわからない。私は日々、目の前の脅威を排除しているだけだ。排除が終わる日など、想像もできない」

 あ、現場の生の声、聞いちゃったよ。


 結局のところ、豊かだから狙われる。だから守らねばならない。じゃあ、貧乏になればいい、とも言えないしなぁ。

 逆に、貧乏な国が豊かになればいいんじゃない?

 あっ!

 いい手があるじゃん!!

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