第5話 王様の本音
まあ、ねぇ。
拳銃で人を撃つなんて、今まで考えたこともなかったけど、武闘家も全然歯が立たなかったし、聖剣タップファーカイトをもってしても一撃で魔王の首は落ちなかった。そういう意味じゃ、別ルールの武器を使うってのは有効かもしれないけど……。
「ちなみにこの拳銃の威力って、どのくらい?」
「スイカなら粉々だ」
「ブロックやレンガなら?」
「ちょっと荷が重い」
「それじゃ、魔王に勝てない。だってさ、私の聖剣タップファーカイトを使ってすら、首を落とすのには何回も斬りつける必要があったんだから」
私の言葉に、ケイディは考え込んだ。
「魔物ってのは、銀には弱いのではないか?
例えばヴァンパイアなら、銀の弾丸で……」
「うーん、わからない。効きそうな気もするけど、実際のところ、どうなのか……」
「では、あまり劣化していないウランで……」
「それって、その弾を持ち歩く私が真っ先に死ぬんじゃない?」
ケイディ、考えることが怖いわ。見境なしってヤツよね。
「……お前でも、ウランが危ないことは知っていたのか?」
「ケイディ、マジでアンタ、失礼ね。それにさ、私を殺す気なん?」
「私だけではない。世界の総意だ。魔王、聖剣タップファーカイトを振り回す勇者、深奥の魔界、すべてが共倒れしてくれれば……」
「面と向かって、それを言う?」
「……本音は伝えておかないと」
ここまで言い合って、私、もう腹も立たない。せいぜい、ふてくされるだけだ。まぁ、ケイディの言いたいことはとてもよくわかるからね。
私は前世で勇者だ。
そして、聖剣タップファーカイトを使い手だ。
その威力は人工衛星を落とし、戦車を簡単に両断するほどだ。そして、それと互角以上に戦う魔王。
ここまでの力だと、世界の軍事バランスは簡単に崩れてしまう。共倒れを願われるのは当然だ。これで、私だけが無事帰還したら、お祝いのパレードの車上で狙撃とかされても不思議はない。今時点でこそ、景気よく武器を貸与してくれるけれど、あくまで一番手を組みやすそうなのが私たちだという意味しかないんだろうな。
「私たち、ケイディの国とことを構える気はないよ」
「強大な力は存在するというそれだけで、排除の対象になる」
言うと思ったよ。
まぁ、そういうもんだとは思うけど、その対象が自分じゃ洒落にならない。
「ケイディから武器は借りるにしても、マジで世界を救おうって私たちに対して、排除はあんまりな報酬じゃない?」
「交渉しようとするのか。さすがは勇者だな」
「だって、ケイディは聖剣タップファーカイトが怖いんでしょ。戦士も武闘家もケイディの国の軍隊とは戦えない。賢者は魔法を使えるけど、魔素というものがここではないらしくて、ほとんど魔法も使えない。脅威は私だけじゃん。
その私も、聖剣タップファーカイトがなかったら、単なる女子高生よ」
そりゃ、私も死にたくはないから必死よ。
「それにね、今回の戦いで、聖剣タップファーカイトを失うかもしれないじゃない。もしかしたら、私の身体から取り出す方法があるかもしれないし。私だって、こんな物騒なものを持ち歩きたくはないから、取り出せたらケイディに預けたっていい。ほら、交渉の余地はあるでしょ?」
そう言ったらケイディ、再び私を探るように見た。
やな視線だなぁ……。
あとがき
ま、魔王を倒したあとの勇者の処遇なんて、こんなものさ……
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