第8話 勇者の片鱗
時間はまだ午後3時くらいらしい。いろいろあったので、体感としてはもっと遅い時刻かと思っていた。
ケイディは、これからみんなを連れてくると言う。いいんじゃないかな、それで。ただ、元武闘家の宇尾くんだけは相当に用心しないと返り討ちを食らうよ。
私はケイディにそう注意するのを忘れなかった。
だって、魔王に単独で挑んでこてんぱんにされたからって、弱いとは言えないじゃん。てか、聖剣タップファーカイトでさえも両断できない魔王を相手に、体術で挑もうっていうんだから武闘家はとても強いはずなんだ。だから、取り逃がしたらとてもめんどくさいことになりそうだ。
「だが、勇者。ここがどこだかは教えられないので、同じように拘束して頭に袋を被せて連れてくることになるが……」
「うん、いいよ。やっちゃって」
私はそう返事をして、うんうんと頷いてみせる。
で、なに、ケイディ、その疑いの眼差しは?
「勇者、お前は私たちに取り入ろうとか、恩を売ろうとか考えているのか?」
やだな、ケイディ。アンタ、そんなこと考えていたの?
「ケイディ、あんた、ちっちゃい。私は共存共栄を考えているだけで、こんなどーーーっでもいいことで恩を売ろうなんて考えてないよ」
「ずいぶんなご挨拶だな」
やだねぇ、ケイディ。私の言葉に裏なんかないよ。パーティーのみんなに、私と同じドキドキ感を与えてあげたいだけで。
あの連中に、私の言うことをきかせるには、まずはショック療法だろうしね。
じーーぃっとケイディの目を見続けてやったら、ケイディ、私に負けて先に視線を逸して呟いた。
「……なるほど」
「なにが、なるほどだって?」
「やかましい。調子に乗るな」
おうおう、やだねぇ、おっきな国に使われているお役人は。そんなとこで権威を見せつけなくたっていいから。
ケイディは顎を上げて、私の後ろに立っている2人に指示を出した。
すぐにその2人は部屋から出ていった。
すごいねぇ。細かい命令とかしなくても、ケイディの意を汲んでくれる部下なんだ。
「まあいい。
他の者が揃うまで、どれほど早くても1時間はかかる。茶でも淹れよう。勇者、お前がなぜ前世を思い出せないのか、その辺りを突っ込んで話してみようではないか」
ケイディの提案に、私は無条件に頷いた。ただ、一発、ハッタリはカマしておこうかな。
「私、イギリスの王室御用達の紅茶しか飲まないから」
「残念だな。ほうじ茶しかない」
「なんで白人のケイディがほうじ茶なのよ?」
そりゃ、聞くでしょう。ちょっと驚いたし。
「日本が嫌いだったら、ここで働く希望なんかしなかった。私は日本の茶が好きなんだ」
「あ、そう。『好き』ねぇ……」
なんか私、毒気を抜かれたような気になった。
で、ケイディがお茶を淹れてくれたんだけど、まるでままごとにしか見えなかった。
まっちょでもりもりの肩から腕なのに、手の中にはちっちゃな急須と湯のみ茶碗。それでこぽこぽといい香りのほうじ茶を淹れてくれて、ケイディはそうやって話を聞く体勢を作った。ちなみに同じ湯呑を手にした私は、その湯呑が特段ちっちゃくないことを確認していた。
あとがき
さあ、他力本願でパーティーの掌握に乗り出す勇者なのだ。
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