第二章 冒険の始まり

第1話 誘拐


 車の中で私、ぐるぐる巻きと言っていいほど念入りに縛り上げられた。

 腕に食い込んだロープがとても痛い。

 私、もうどうしていいかわからなかったけれど、それでも頭の中には冷静な部分も少しだけ残っていた。

 こいつらは、私が聖剣タップファーカイトを使うことを知っている。知っているからこそ、私がなにも握れない、振れないようにしたんだ。


 怖い。

 怖いけど、きっと私を誘拐したこいつらも私が怖いんだ。


 車はスピードを出したりはしなかった。

 むしろゆっくりと走り、信号なんかもきちんと待っているみたいだった。だけど、それが逃げ出せるチャンスだとは思えなかった。外はなにも見えないし、縛り上げられた私は車の床でイモムシみたいにもがくのが精一杯だったんだ。


 車は30分もかからずに、どこかのガレージに入り込んで止まった。エンジンの反射音から、そのくらいは私にもわかった。

 車のドアがあき、私の身体は強引に立たせられた。

 なのに、車を降りるときの段差、とても丁寧に誘導された。そして、ドアが開く音がして、そのまま歩かされた。建物の中に入ったんだと思う。


 殴られたりしたらパニックになっていただろうけど、私、その丁寧さで落ち着くことができたんだ。少なくともいきなり殺されたりはしない。まずは話し合いになるって気がしたんだ。

 ドアが開く音がして、私どこかの部屋に入った。そして、強引に座らされた。うん、この感触はパイプ椅子だ。

 そして、私の頭に被せられていた袋が取られた。


 私、目が明るさに慣れていなくて、瞬きを何回か繰り返した。そうしたら、目の前にごりごりのまっちょな白人が座っているのが見えた。振り返りはしなかったけど、私の後ろには私を誘拐してここまで連れてきた人たちもいるはずだ。


「まずは話を聞いて欲しい。話を聞いてもらってから、君の束縛は解く。申し訳ないが、我々は観察の結果、それまで君の腕を自由にはできないと判断している」

 あ、訛りもないきれいな日本語だな。テレビのアナウンサーみたい。なんか胡散臭いといえば胡散臭い。


「……わかった。縛られた腕が痛いから、早く話して」

 そう答えたら、まっちょな白人は訝しげな顔になって私の目を覗き込んだ。だけど私、それには反応しようがない。


「では話そう。

 先日、我々の偵察衛星が1つ、完全に破壊され機能停止した。地上からのなんらかのビーム砲による攻撃と推測された。当然、我々はその発射元を突き止めようとした。それは我々の想像を裏切り、日本のとある高校から発射されていた」

 その言葉に、私、とっても残念なんだけど、思い当たることがあった。


「それって、昨日の夕方?」

 私の問いに、まっちょな白人は大きく頷いた。

 くそっ、やっぱりか。

 なんてこった。


「我々は本日未明、その高校の各所に情報収集のためのマイクを仕掛けた。そこで、聖剣タップファーカイトという単語が拾い上げられ、それでも高校生の妄想だろうということで3日間のみの観察対象とした。だが……」

「ダム湖での一部始終を見られたということ?」

「そうだ」

 まっちょな白人の返答に、私、両手が自由だったら頭を抱えていたに違いない。

 やっちまったなぁ。


 面白半分に画鋲を依り代にして、私は聖剣タップファーカイトを振った。元魔王に、だ。あいつがそれを避けちゃったから、カーテンに大穴を開け、それくらいじゃ威力は衰えずに、聖剣タップファーカイトはその偵察衛星とやらに当たってしまったんだろうな。



あとがき

新章ですー。

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