第36話 4日目の昼


 私、それから午前中、ずっと考えていた。

 私は勇者で、身体の中に聖剣タップファーカイトを持っていて、それは今世でも使うことができる。その威力は、直径1メートルの大穴開けられるくらいで、絶対警察官の持っているテッポーより上だ。

 なのに、私は前世を思い出せていない。


 朝、橙香は自分が魔王に身を捧げると言い出して、その姿は前世でアーデルハイト、「高貴な姿」と呼ばれていたのにふさわしい姿だった。だけど、だからって私に同じことができるかって聞かれたら、「できる」だなんてとても言えない。

 だって、魔王は怖いし、深奥の魔界はもっと怖い。身体の中に聖剣タップファーカイトがなかったら、学校に来るのだって止めちゃいたいくらいだ。


 なのに、橙香も宇尾くんも、結城先生でさえも、なんで魔王と手を組んで戦うなんて言えちゃうんだろう?

 宇尾くんは武闘家だから今世でも戦えるかもだけど、橙香は装備を何一つ持っていないし、結城先生だって魔法は使えないだろう。

 魔王の辺見くんだって、ときどきちらちらと辺見くんの姿が魔王の姿の上に来ることがある。つまり辺見くん自身の人格もまだあるわけで、自分の中の魔王が怖くはないんだろうか?


 と、ここまで考えて私、愕然としたよ。

 魔王が怖いって!?

 うん、そうだね、魔王はとても怖いはずだ。怖くなければおかしいんだよ。世の中を救うなんてことも、そりゃカッコいいけど、本当なら怖くなきゃおかしい。失敗したら、世界が滅びちゃうんだから。

 なのに、なんで私、魔王を目の前にすると魔王が怖くないんだろ。


 そう考えたら、思考が止まらなくなった。

 こうやって考えているときはいいけど、魔王の前に立つと、私は全然魔王が怖くない人になるから。そしてどうやらそれは、前世での関わりがある人が近くにいるときもなんだ。だって、高校に来てから辺見くんと橙香とはずっと一緒にいるからね。


 それに私、怖さを感じないほどのお馬鹿じゃなかったはずなんだよね。良くもないけど悪くもなくて、いつだって真ん中くらいにはいたはずなんだ。なのに、私は内側から変わってしまっている。


 ……えっ、内側というか、中!?

 ……もしかして、私の体内にある聖剣タップファーカイトが私を私でなくさせている?

 となると、聖剣タップファーカイトってそもそもなんなの?

 前世の記憶があれば、どうやってこれを手に入れたかわかるのに。そして、その性能も。


 だってさ、私、今思いついたんだけど、聖剣タップファーカイトがただ単なる武器で、いろいろなものを斬ったり穴を開けたりという使い方しかできないってのは、思い込みなんじゃないかな?

 もしかしたら、武器アビリティとかあって、勇気とか、蛮勇とか、突進とかが付与されているんじゃないかな?

 だから、怖くないんだ。


 それにさ、武器アビリティの設定とかあったらさ、前世で魔王との最後の戦いで聖剣タップファーカイトを使ってから、そのまんまってありそうじゃない?

 もしかしたら「かしこさ」なんていうアビリティもあって、それに付け替えたら私、天才少女の名をほしいがままにできるんじゃないかな。

 少なくとも、今の蛮勇とか、突進は外したいぞ。



 あとがき

あけましておめでとうございます。

こちらも更新です。

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