第34話 4日目の朝2
私が睨みつけたら、辺見くん、なんかへどもどと言いわけを始めた。
「いや、前世では別に可愛くなかったぞ。というか、同じ魔界にいても余とは種族が違うので、ドラゴン基準では可愛いかもしれぬが、余からしてみればあずかり知らぬことよ」
「まぁ、そうよね。可愛いトカゲって言われたって、魔王からしたら発情はしないわよね」
なんで橙香が、フォローみたいなこと言いだすのよ?
「わっかんないわよー。そもそも魔王がどんな種族だったかなんてわからないじゃない。魔界には雌であればどんな種でも構わないって言い寄り魔だっているみたいだし、魔王がそういうヤツだったことは否定できないでしょっ。違うと言うなら証拠を出せ。証拠だ証拠」
私、そう決めつけてやったわ。
「いくらなんでも、それはない。それはないぞ。余とて同一種族とでなければ……」
なんでそう傷ついた顔するのかしらね、この魔王は?
「王というからには、アンタ、ハーレムぐらい持っていたでしょ?」
「……貴様ら、前世で余を倒すときに、我が城を隅々まで精査したではないか。ハーレムなどなかったはずだぞ」
なにを力説しているのよ。かえって怪しいじゃない。
「おあいにくさま。
私は前世を思い出せていないの。だから、辺見くんがそんなこと言ったからって、丸め込まれたりはしないよ。それにね、幽霊の女ばっかり集めたハーレムだったら、そりゃ、見つからないよね」
「疑いたいという願望だけで、余を問い詰めないでくれ」
「私はね、論理的せっ、整合性に沿ってアンタに聞いているのよ、魔王」
「阿梨、慣れない難しい言葉使うと、舌噛むよ」
橙香、やかましいっ。この裏切り者。そう言えば昨日、私のことを「バカ」って言ったわよねっ?
今のもその延長?
「頼むから早く前世を思い出してくれ。とてもではないが、このままでは世界が滅びてしまう」
「いいじゃない、滅びたって。可愛い上将ドラゴンに慰めてもらいなさいよっ」
「上将ドラゴンとて、人の身体であれば火も噴けず、今世では魔法も使えぬ。前世からの力を受け継いでいるのが勇者の聖剣タップファーカイトのみである現在、勇者に勇者としての自覚を持ってもらうしかないのだ」
うー、だからひたすら下手に出ているって言いたいの?
「……阿梨、アンタしかこの世界と魔界の両方を救えないの。
頼むから、もう少し聞きわけ良くなってよ」
「冗談じゃない。結城先生の案に賛成したくせに。私だって幸せになりたいっ」
私がそう言い返したら、橙香、いつになく真面目な顔になった。
「じゃあ、阿梨がこの世界と魔界の両方を救う方法考えてよ。このままじゃヤバいって、阿梨もわかっているでしょ。2つの世界を救うために魔界とも協力しないといけないのに、このままじゃ2つとも滅びちゃう。
勇者の聖剣タップファーカイトと魔王の魔力と知識、その2つが結びつかないと戦いは負けるのに、今朝はなに? いきなり『終端のツェツィーリア』に対して嫉妬しているの!?」
「うるさいっ。
じゃあさっ、魔王と協力するから、魔王のところに融和の象徴として嫁に行くのは橙香でいいよね?」
私、そう決めつけてやった。
だけど、なぜだろう?
心の深い底で、なにかがちくりと痛んだんだ……。
あとがき
勇者、性格、天邪鬼w
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