第33話 4日目の朝


 ここまで賢者の提案が最悪のものだとすると、私もう、逃げるためにはなんでもしないといけないって気がしてきた。

「ねぇ、辺見くん。なんかいい手を考えようよ。そうでないと、私たち、強引にくっつけられて、今世の人生を棒に振ることになるよ」

「そうだな。このまま行くと、お見合い話を強引に進める親戚のうるさいおばさんキャラが主人公になってしまうぞ」

「そんなわけのわからない、メタなこと言っちゃだめ。でも、主人公は勇者、そしてその宿敵の魔王なんだから、相談した方がいい」

「そうしよう」

 私、怒りの視線を橙香と宇尾くん、結城先生に叩きつけると、元魔王と一緒に保健室から出た。


 きちんと元魔王と協力して手を打たないと、気がついたら南極大陸の氷原の真ん中で2人で立ちすくんでいるって事態になりかねないからね。

 それから私と元魔王、時間が時間だから、どこかのお店に入るなんてことはせず、一緒に帰れるところまで歩きながら話し合った。


 そりゃあもう、盛り上がったわよ。

 賢者への悪口でしょ、戦士である橙香が裏切りやがったことでしょ、武闘家の宇尾くんが予想外にツマラナイ奴だったってことでしょ。魔王は魔王で自分を忘れていた2等スライムを許せないみたいだし、話しても話しても話し足りないわっ。


 あまりの話の尽きなさに、翌日の続きの時間と場所を決めて、その日は仕方なく帰ったわよ。



 − − − − − − − − − − − − − − − −


 翌朝。

 辺見くんが朝イチで続きを話に来るかと思っていたんだけど、来ることはなかった。

 なんかね、隣のクラスから可愛い女子がやってきて、私を差し置いて熱心に話し合っていたのよ。この裏切り者め。

 かといって、私だってそこに割り込んでいけるほどツラの皮は厚くないわ。


 でもって、私以上に橙香はちらちらと辺見くんとその女子を見ていて……。

 不意にいなくなったと思ったら、武闘家の宇尾くん連れてきた。

 で、宇尾くん、びっくりした顔になって、そのままどこかへ行っちゃった。取り残された橙香が私をちらちら見るんだけど、一体全体なんだって言うのよ……。


 そのまま朝のホームルームが始まって、終わって、1時間目が始まる前に私の方から辺見くんの机に押しかけた。後ろから橙香がなんか話しかけてきていたけど、そんなの知ったこっちゃないわ。

 私、辺見くんの前に立って、聞いてやった。

「昨日の続きを話す予定だったのに、どうしたの?」

 ってね。


「昨日、武闘家と戦った。

 余の力を一瞬と言えど開放したのだ。そうしたら、やはり転生していた上将ドラゴンが目覚めてな、ご機嫌伺いに来たのだ」

「えっ、2等スライムだけじゃなかったんだ、生まれ変わってた魔族は……」

「やはり、余の徳であろうな。部下が余を慕ってついてきておる」

「……だとしたら、今の魔界、空っぽだね」

 私がそう元魔王にイヤミを言うと、後ろから橙香が私の袖を思いっきり引っ張ってきた。

 なんだっていうのよ、もうっ。


「なによっ!?」

 私、振り向きざまに橙香に聞いた。一体、なにが言いたいっていうのよ?

「あのね、宇尾くんが言うには、私たち、あの隣のクラスの女子、前世は上将ドラゴンの『終端のツェツィーリア』に全滅させられたことがあるって……。火を吐かれて、私たちは全身炭化して火葬されちゃったに近くて、焼け残りから蘇るのには多額のお金が掛かったそうよ。

 武闘家なのに、宇尾くん、怯えてた」

「あの女、可愛い顔してなんと非道いことを……」

 私がそう呻くと、元魔王は複雑な顔になった。



あとがき

「あの女、可愛い顔してなんと非道いことを……」w

でた、自分を棚上げww

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