第32話 3日目の放課後、保健室7
私が「ずーーーっと黙っていてくれていいから」って願っていたのに、賢者の結城先生、ぺらぺらと話しだした。
「昔ね、仲の悪い男女を家や集落の都合で夫婦にしないといけないとき、その2人を無人島に置き去りにしたんだって。3日後くらいに迎えに行くと、大抵デキていたそうよ。デキていなかったら、もう3日ってね」
「ちょっ、待って。
私と魔王をどこかに置き去りにするつもりなの?
私が魔王に殺されちゃったらどうするの?」
「余とて、それは勘弁してもらいたいものだ。洒落にならぬ。殺して腹を裂き、食らい尽くしてくれようかとも思ったが、どうせハラワタ真っ黒だぞ、こやつは」
私と魔王が必死で反対しているのに……。なんで賢者、笑っているのよ!?
「大丈夫。勇者には、聖剣タップファーカイトがある。それで身を守って、あとは3日くらい寝ず飲まず食わずでも死にゃしないわよ。そうね、暖かいところは可哀想だから、凍死寸前の寒いところがいいかもね」
「死ぬ、マジ死ぬって。
そもそも暖かいところは可哀想って、どういうこと?」
私はそう叫び、元魔王もむちゃくちゃ渋い顔になった。
このままいくと、元魔王、きっとまた泣いちゃうぞ。
「だってさ、寒かったら互いの体温しか温まる手立てがないでしょ。ほら、これでくっつく理由ができたじゃない。暖かいとくっつく理由がなくなっちゃって可哀想だから。でさ、五月女さん、さっきも言ったけど、辺見くんは見た目だけはいいんだよ」
「そんなこと言ったって、凍死寸前のところでどうにかなるもんでもないでしょっ!?
食べるものも飲むものもないんだから、死ぬって!」
「前世じゃ、私たち、生き延びたよ。じゃあ、特別にペットボトルとコンビニのお弁当を持たしてあげるから」
賢者、アンタこそ現役の魔王よっ!!
なんでそこまで非道いことを言えるんだっ?
「そもそもさ、私と元魔王が前世では殺し合うほど嫌い合っていて、それが今世ではくっつけって、無理がある。そういうのって、前世から思い合っていた仲が成就するってのがいいんじゃないの?」
「そんなベタな中身の小説があったとして、勇者は『……またか』って思わない?
やっぱり、2人の間の障害が大きいほど、恋の物語は燃えるものよ。嫌い合う2人なんて、素晴らしいほど障害が大きいじゃない」
なんかその言葉、ひどく根本的に間違っているような気がする。
なのに、なんで目配せしあって「うんうん」って頷いているんだ、橙香と宇尾くんはっ?
アンタら、これが可怪しいとは思わないの?
そこで、元魔王の辺見くんが口を開いた。
「賢者よ、余も聞こうではないか。
嫌い合っている以上、そこに恋はない。恋という原動力がないのに、なぜこれが成立すると思うのだ?」
「あら、高校生同士、獣欲ならあるじゃない。
それでも子供は生まれてくるし、2つの世界の融和にはその子供こそが重要なんだから、あとはどーでもいいわ」
だめだ、コレ。
そもそも「教員としてこんなこと言っていいのか」って以前に、こういうのが、サイコパスとか陰の悪党とかなんだろうな。
「生まれてくる子供だって可哀想じゃん。
そういうの、考えないわけ?」
「だから、その子については我らが全面的にフォローする」
……武闘家、なんでそんなに偉そうに口を出すのよ。
あとがき
敵は団結を呼ぶ、のですww
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