第31話 3日目の放課後、保健室6


 ここで、元魔王の辺見くんの嫌そうな顔が、さらにブーストした。

「余は……、余は、ガサツな勇者は、女性として嫌だと言ったではないかっ!」

「ジェンダーの話は措いておくとして、魔王、アンタ、そんなに私のことが嫌いなんだ……」

「……『嫌なんだ』って、なんだそのがっかり感は?

 そもそも勇者は、余のことを少しでも好いているのか?」

 なに聞いてくんのよ、この元魔王は。キモいじゃないっ。セクハラよ、セクハラ。


「そんなわけないじゃない。でも、それとこれは別。

 私は魔王なんか大嫌いっ。でもね、元魔王、アンタが私を嫌うのは許せないってこと」

「……言っている意味がまったくわからん」

 ……鈍いったらありゃしない。よくもそれで王様が務まったわね。それとも、魔族ってのは元々が鈍ちんのかしらん?


「なんでわからないの?

 私振るのはいいけど、振られるのはダメってこと。たったそれだけのことが、なんでわからないの?」

「余は、前世で1000年生きた。それでも、勇者、なんと言われようがオマエの言うことはわからんっ」

 人が懇切丁寧に説明してあげたのに、アンタ真性だわ、魔王。


「ずいぶんと無駄に1000年を生きたわね。

 ああ、もったいない。エルフなら世界一の魔法使いになっているところよっ」

「魔王の人生に対して、オマエはなんということを言うのだっ!」

 ふん、反論に中身がないわ。魔族のくせに生だなんて、笑わせないで。

 次でトドメを刺してやるからなっ。


 と思ったけど、結城先生が割り込んできた。

「もう、痴話喧嘩はいいから。アンタらの話を黙って聞いていたら、明日の朝までそうやって言い合っていそうだわ。

 さっき勇者、『魔王、私、アンタのところに押しかけて王妃になってやるからなっ!』って言ったよね」

「わ、私、そんなこと言ってない!」

 い、い、言うわけないじゃんっ。ってか、こんなに話を逸しているのに、なんで憶えているのよっ?


「宇尾くん、聞いた?」

「聞いたぞ」

「蓮見さん、聞いたよね?」

「うん。阿梨、ずいぶんと遠くに行っちゃったんだなぁって思ったわ」

「私もこの耳でしっかり聞いたから、間違いないよね。

 五月女さん、あなたは言った」

 なんなの、ねぇ、いったいなんなの?

 なんで、そんなドヤ顔で非道いこと断言するの?


「同じパーティーで苦労したっていうのに、みんな裏切り者だわっ!」

「そう言うならその苦労、なんか1つでも言ってみたら?

 そうしたら、私たちもなにか心打たれるかもよ」

 くっ、思い出せていないことをいいことに、そうやって私のことを責めるんだ……。


「……寒い日におなかが痛くなった」

「ふーーん」

「お腹が減って、しかたなくスライムを食べた」

「洒落にならないからやめて」

「おへそをイジりすぎて、お腹が腫れた」

「阿梨、アンタ、バカじゃない?」

「お腹が……」

「お腹以外にないんかいっ?」

 なによっ。人間にとって、お腹はとても大切じゃないのよっ。そんなこともわからないの、橙香?

 そもそもアンタだって、前世のことは思い出せていないでしょ?


「私ね、いい案があるんだ」

 ……結城先生、アンタがなんか言い出すと、私が不幸になる。その案とやら、黙っていてくれないかな?

 いやもう、ずーーーっと黙っていてくれていいから。




 あとがき

なにを言っとるんだ、勇者はwww

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