第30話 3日目の放課後、保健室5


 したら、結城先生もまた同じことを繰り返す。

「そう、私たちは魔王との決戦で何回も死んだんだよ。ほら、それに比べたら、これで無傷で世界を救えるんだから、さ」

「そうそう。対立より融和。愛とか未来とか、こういう単語は勇者らしくていいキャッチコピーじゃないか」

 なによ、宇尾くんもさっ。


「……前世の私、勇者のせいで血みどろで戦っていたのか。なら、平和的解決ができるなら、それにこしたことはないわね」

 あれ、私を説得する相手が、いきなり3人に増えた?

 言っておくけど橙香、アンタが最後の最後で裏切ったこと、私、一生忘れないからねっ!

 遺言状に書いておいて、子々孫々恨み言を言ってやるんだからねっ!


 ……アンタら、私を人身御供に出せば、自分たちは無事ですべて丸く収まるとか考えているよね?

 同じパーティーで苦楽を共にした仲なのに、それって酷すぎない?

 まぁ、どのくらい苦楽を共にしたか、私は憶えていないんだけど。


 ひょっとして、「土日だけ戦う」っていうのも、私の成績のためじゃなくて、将来偉くなりたいがゆえに勤務に穴を開けずに済ませたい、結城先生本人のためなんじゃない?

 まぁ、考えすぎだとは思うけどさ、疑うだけならタダだよね、タダ。


 そこへ……。

「妃選びについては、余にも好みを言う権利があると思うのだが……」

 と、辺見くんが小声で介入してきた。

 おおう、ナイスな反論。

 さすが魔王、頼りになるわ。

 って、よくよく考えたらなんか頭にくるのはなんでなんだろう?


「そもそもな、余の首を斬った相手ぞ。そのときのこと、余は忘れようにも忘れられぬ。それになにより、余はこのようなガサツな女性にょしょうは好まぬ」

「なんだとーーーっ。この私が、ガサツだって言うのかよっ!?」

「勇者、そういうところだぞ」

「やかましいわっ。私のどこが悪いって言うのよっ!?」

「いやだから、そういうところだぞ」

 同じ言葉を繰り返されても、辺見くん、私わかんないよっ。


「だから、そういうところって、どこよっ!?

 具体的に言ってみなさいよっ!」

「ガサツで思いやりがなくて、ジコチューで勝手で、ガサツで人にマウントしたがるところ」

 なによっ。ガサツって、2回も言うことないじゃない。


「ついでにおバカなところ、も」

「そこに恥ずかしさを感じていないところにも、だ」

「……て、てめえら」

 橙香、アンタ、完全に敵に回ったわねっ。なんで宇尾くんと共闘して元魔王の辺見くんと息を合わせているのよっ!


 さらに辺見くんは続ける。

「だから、余は勇者を女性としては認めぬ。そんな者を、妃になどできるはずもない」

 私、ここでぷっつんって、自分の頭の中でなにかが切れる音がした気がした。


「できらぁ!

 魔王、私、アンタのところに押しかけて王妃になってやるからなっ!

 憶えておけよっ!」

 ふんす、言ってやったわっ。


「承諾、ありがとうございます」

 急に改まってなによ、結城先生。

 なにが承認で、なにがありがとうだって?


「魔王に嫁ぐ以上、もっと勉強してもらわないとだな」

「うん、学年最下位じゃ、王妃としてあまりに恥ずかしいよね」

「王妃としての教養も必要だけど、元々人間としての教養とか思慮深さとかがないからなぁ」

「あれっ!?」

 どういうこと?

 アンタら、なにを言っているの?

 なんでいつの間にか、この私が、元魔王に嫁ぐことになっているのよ?

 わけわかんないじゃないっ。



あとがき

絶対的に良くない、「できらぁ!」ですww


でもって本日の挿絵

https://kakuyomu.jp/users/komirin/news/16817330668737380851


ありがとうございます。

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