第27話 3日目の放課後、保健室2


 結城先生は、あからさまに疑いの目を辺見くんに向けた。

「だからね、それもあなたの言葉なのよ。

 どう言葉を使われても、それは安全保障にはならない。隣接の魔王が最初から嘘を並べていない保証はないし、それが嘘か真実かの見極めは私たちには不可能なの。

 だから、隣接の魔王を即死させるような安全保障がなければ、私たちは共には戦えない」

 あ、言われてみればそのとーりだわ。さすが、結城先生は賢者だわ。

 でも、辺見くん、この条件は飲めないだろうなぁ。


「その話は逆にもなろう。

 深奥の魔界を封じた次の瞬間、お前たちが余を殺さぬ保証はあるのか?」

 あ、ほら、こっちもそのとーりだもん。


「互いに互いが信用できない。それでも協力せねばならない。

 こういう例は人類史にも数多くあった。その場合、どうしてきたか、魔王は知っている?」

 結城先生は、辺見くんにそう尋ねた。


「……人質を出し合うのか?

 だが、余が出した人質にそれだけの価値があると、どのようにしてお前たちは判断するのだ?

 2等スライムなど、大義の前には使い捨てぞ」

「そうね。まったくその通りだわ。

 だけど、それでもまだ手があるのよ」

 なんだろ。

 なんか、ものすごく嫌な予感がしてきたぞ。


「それはどのようなものなのか?」

 辺見くんがそう聞いた。

「まずは、こちらが人質を出す。出すのは五月女阿梨、勇者よ」

 ち、ちょっと待ちなさいよっ。

 どういうことよっ?

 勇者って、人質になるもんなの?

 最後まで守られるべき人類の希望じゃないの?


 私が思わず椅子から立ち上がってなにか言おうとしたら、橙香が私を目で制した。そして小声で言う。

「最後まで聞いてから。それからだって文句は遅くない」

 ……しかたないわね。聞いてあげるわよっ。


「ほう。

 そして、その勇者が余の隙をついて首を狙うということか?」

「短絡的ね、魔王。よくもそれで王が務まったものね」

 賢者の物言いは、私と変わらないような気がする。でも、私が言ったときと違って、魔王は頭を抱え込んだりはしなかった。むしろ、迫力を増して反論してきた。


「さっさと、お前の考えを示せ。余は聞いてやっているのだ」

「生意気言うと、勇者をけしかけるわよ」

 ……それってどういう意味よ?

 私、犬かなんかだっていうの?


「……それではまた話が進まなくなる。仕方ない。お前の考えを示せ」

「今資料を見たんだけど、辺見くんと五月女さんは共に3組の学級委員よね。あなたたち、デキちゃいなさい」

「……それはどういう意味だ?」

「わからないの?

 相思相愛の関係になって、将来的には子供も作りなさい。これで、この世界と魔界は未来に渡って平和になるわ」

 ちょっと!!

 結城先生、アンタ、教育者としてそんなこと言っていいんか、ソレ?


 それに、そもそも私が辺見くんと!?

 冗談じゃないわっ。

「ほら、五月女さん、辺見くんは見た目だけはいいよ」

「そ、そんな仲介、ある!?」

 私、思わず叫んじゃったわよ。

 

「ほら、辺見くん、五月女さんは活発で自分に正直ないい娘よ」

「ちょっと待て!!」

 次には辺見くんも叫んだ。


 だけど、結城先生、さらにしれっととんでもないことを言った。

「そうしたら、私と蓮見さん、宇尾くんとで、その子を一生守るから。

 いい案でしょ?

 これで、この世界と隣接の魔界は永遠に平和よ」

 もうね、ツッコミどころが多すぎて、どこからツッコんでいいかわからないじゃないっ!!



あとがき

うーん、賢者、すばらしいw

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