第26話 3日目の放課後、保健室
全員の名前が判明し、それが笑いの渦となった。
……特に私の名が。
「魔王っ、アンタには名前ないの!?」
私の八つ当たりに、元魔王め、余裕の返答をしてきた。
「余の名前は、人間の声帯では発声できぬのだ、コジマよ」
「ち、ちきしょう、ちきしょう……」
呻くような私の泣き声に再び全員が笑った。
一体全体、私がなにをしたっていうのよ。私だってアーデルハイトみたいのがよかった!!
「いい加減、もうやめようよ。十分、痛み分けたでしょ」
結城先生がようやく仲裁に入った。まぁ、唯一の大人だし、今だって遅いくらいよね。勇者の私が酷い目にあっていたのにさっ。
「そろそろ暗くなってきたし、屋上も担当の先生が鍵を掛けに来るわ。続きは保健室で話しましょう」
「いいの?」
橙香の問いに、結城先生は答える。
「最終下校時間までならね」
そう言われて、私、最終下校時間なんてあったんだって思った。だけど、それが何時か聞いたら、「入学式のあとのガイダンスで話したでしょ」って簡単に言い返されそうなので、聞くのはやめておいた。
ほら、また結城先生が頭抱えてがっかりした顔になったら可哀想じゃん。私だって、気を使うんだよ。
で、私たち、ぞろぞろと保健室に移動することになった。
薄く消毒薬のにおいが漂う保健室の中、結城先生が折りたたみ椅子を出してくれて全員が座った。本来なら魔王なんか立たせておけばいいんだろうけれど、まあまあって話になったので、仕方ないよね。私だって、空気は読むし協調性もあるんだよ。
「魔王。
話を始める前に一つ聞いておきたいのだけど、あなたを即時に無力化する方法はあるの?」
結城先生の問いに、辺見くんは訝しげな顔になった。
「どういう意味だ?」
「その前に、わかりやすくするために、言葉を定義するわね。
魔王の世界は浅端の魔界とその魔王、今回攻めてくるのは深奥の魔界ということでいいかしら?
そこにも魔王がいたら、深奥の魔王ってことになるわ」
「いくらなんでも、浅端はない。余を愚弄しているのか?」
「深奥の反対だからよ。含んでいるものはないわ。じゃ、隣接の魔界なら?」
「……しかたあるまい」
不満そうだねぇ、辺見くん。
「じゃあ、続けるわ。
魔王と私たちが協力して深奥の魔界と戦うとしたら、私たち、隣接の魔王、すなわち辺見くんに裏切られるのが一番怖い。深奥の魔界を封じることができた次の瞬間、私たちが隣接の魔王に殺されるってのは容認できないのよ」
結城先生の言葉に、辺見くんは頷いた。
「言いたいことはわかる。だが、こうも考えられないか?
余が悪かったと認めはするが、我が魔界があふれるまではこの世界と魔界は共存してきた。それどころか、お互いに存在を認識することすらなかったではないか。
魔界は余がいなくなってから魔族の数も減り、こちらに溢れ出ることも、もはやなかろう。余も前回と同じ過ちは繰り返さぬ。魔族の数を爆発的に増やすことなどせぬ。
深奥の魔界を封じたのちは平和的共存ができるのに、反撃されるリスクを冒してお前たちを殺す必然はない」
あー、なるほど。
じゃ、大丈夫かな?
私はそう思ったのに、結城先生は納得していない。。
だけどさ、なんか話の展開が速いよね。結城先生と辺見くんで話し合ってくれたら、いろいろすぐに片が付きそうだよね。
もしかして私、いらないんじゃないかな?
イチ抜けた、アリかな?
あとがき
冒険から真っ先に逃げようとする勇者ってw
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