第25話 3日目の放課後、名のり2


「今世の名はわかった。で、前世での名は?」

 武闘家が重ねて聞いた。


「まずは聞く前に自分で名乗りなさいよ。

 そもそも私と勇者は、前世を思い出せていないんだから」

 橙香がそうツッコむと。武闘家の声はうわずった。

「えっ、いや、その……」

「アンタ、まさか『と◯ぬら』だったとでもいうの?」

 橙香の追撃は厳しい。

 なにを自爆しているのかな、この武闘家は?

 自分で出した話題にテレるこたないだろうに。


「そんな訳はないだろ。だけど、その、なんだ、改めて口にするのはなんか妙に恥ずかしいな。いう話ではないはずなのに、妙に中二病患者っぽくなってしまう……」

「そう、いう話じゃないんだから、さっさと名乗る!」

 私の声に武闘家はびくってなった。


「うう……、せ、せ、せ」

「さっさと名乗りなさいよ、セバスチャン(Sebastian)」

 そこへ、賢者の声が無情に響いた。


「ふーーん、セバスチャンくんなんだ。って、執事かよっ!

 武闘家というぐらいだから、中国人みたいな名前なのかと思っていたわ」

 私の笑い声に、セバスチャンくんは青くなったり赤くなったりして、汗をだらだらとかいている。


「き、汚ねぇぞ、賢者!」

「あ、私はサクラ(Sacra)だから。ねぇ、セバスチャンくん」

 賢者はそうあっさりと名乗る。


「サクラって言ったって、花じゃなくて『神の恩寵』って意味じゃねーか。たまたま日本語っぽいからって……」

「ぐちぐちうるさいわね、セバスチャンっ」

「う、うるせぇっ」

「この際だから、まだ自分の名前を思い出していない勇者と戦士に、前世の名前を教えてあげたら?」

 そこで、武闘家の顔色が通常に戻ったような気がした。そして。私はどことなく嫌な予感がした。


「戦士がアーデルハイト(Adelheid)」

 私、爆笑しちゃったわ。嫌な予感なんか忘れて。

「橙香がアーデルハイト!?

 顔、アーデルハイトにしちゃ、平たくない!?」

「う、うるさいわねっ!

 いいじゃん、アーデルハイト、高貴な感じがしてっ!

 ルッキズムってのは良くないのよっ!」

 橙香がそう叫んだので、私、立っていられなくなって屋上の床に手をついてひいひいと笑い続けた。ああ、辛い。

「高貴って、自分で言う!?

 マジで言う!?

 それが高貴!?

 わははははは」


 転げ回るようにして笑う私に、武闘家はさらに続けた。

「実際、アーデルハイトの意味は『高貴な姿』だ」

 マジか?

 ひいひい。

 腹筋がもたないよっ。


 そこへ、さらに武闘家の声が響いた。

「勇者の名は、コジマ(Cosima)だった」

 しーーーん。


「コジマかよっ!?」

 私の確認に、いきなり爆笑が起きた。

 許せないことに、元魔王までが転げ回って笑っている。

「な、なんで私だけコジマなのよっ!」

「いや、前世の世界では普通に女性の名前だったぞ。『宇宙の調和と秩序』という意味だ。サクラと同じで日本語に聞こえるのは偶然だ」

「そのサクラさんに言われても、ぜんぜん嬉しくないっ!」

 私はさらにそう叫んだ。


「ひーーっひっひっひっ、コジマ、聖剣タップファーカイトを振り回すコジマ!

 でもって、阿梨が『宇宙の調和と秩序』だって。性格、真逆じゃん。マジ助けて、うひゃひゃひゃひゃひゃ」

「う、うるさいわねっ、アーデルハイト!」

 私がそう叫んだのに、橙香はものすごい余裕を見せつける態度で言いやがった。


「うん、私はアーデルハイトで結構よ。コジマ。

 てか、コジマに比べたら、セバスチャンすらも霞むわー。ねぇ、コジマもそう思わない?」

「ち、ちきしょう」

 私、JKとしては、決して口にしてはいけない単語を呟いていた。



 あとがき

 ……「平たい顔族」なんて言葉もありましたから、「平たい顔」までだったらセーフかなー……。当初はもっとえげつなかったんですけど、良識により……w

 

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