第24話 3日目の放課後、名のり
私がバケツに水を汲んできて、倒れている武闘家にぶっかけるとか考えていたら……。
橙香が、武闘家の足を容赦なく蹴飛ばした。
「ほら、起きろ」
って。
「うわっ」
私、驚いてしまって、助けもせず、でも叫びはした。
「戦士と武闘家って、パーティー内で競合関係だからね。お互い、当たりはずいぶんとキビシイんだ」
……賢者、その解説はありがたいけど、それを知っているならその説明をする前に橙香を止めた方がよくない?
そんな私の考えを表明する間もなく、橙香は武闘家の足を容赦なく3回蹴飛ばした。4回目がなかったのは、武闘家がぷりぷりと怒りながら目を覚ましたからだ。
「なんで、そんな非道いことができるんだっ!?」
「アンタが口ほどもなく、あっけなく気絶したからでしょ。私たち、介抱してあげたのよ。感謝しなさいよっ!」
橙香も負けていない。
「そうよ。
逆さになっていて、額にまでよだれを垂らしていたのを介抱してあげたんだからね。あー、汚い」
私も橙香に合わせて、武闘家に反省を促した。やっぱり、どっちかと問われれば橙香のカタを持つよね、私。
「……勇者、その最低限の介抱をしたのは私なんだが」
あー、そうだったかもね、賢者。
「そうだ。
私は武闘家だ。お前が勇者で、こっちが戦士、そして先生が賢者か……。前世のときと同じ瞳をしているな。もっとも、コントラストはかなり薄いが。
だがな……。魔王までいるってのは、悪い夢を見ているようだ……」
そう言われた元魔王の辺見くん、なんか傷ついた顔になった。
「前世のこと、覚えている?」
私の問いに、武闘家は憮然と答えた。
「ああ」
「じゃあ、この魔王に2度殺されたのも?」
「それは勇者、アンタだ。俺は6度くらい殺されたんだ。賢者に復活させられては魔王に殺されて、ってのを繰り返したからな。ようやく細かいところまで思い出したよ」
「じゃあ、どういうふうに殺されたかは覚えている?」
私の問いに、賢者はぷりぷりと怒りの表情になった。
「おい、勇者。
オマエも2度殺されているけど、どう殺されたか、そのときのことをきちんと話せと言われて、話せるか?
痛みも不快さもすべて思い出したくもないんだよ。オマエは平気なのか?」
「私、全然思い出せてないもん」
私が正直に答えたら、武闘家、なんか打ちのめされたような顔になった。なんでみんな、この顔するんだろうね?
「とりあえず、君も一年生だよね。何組の誰だっけ?」
賢者がそう武闘家に聞いたので、私もいろいろ聞かなきゃいけないことを思い出した。
「ねえ、その前に保健室の先生、先生の名前はなんでしたっけ?
さっき、聞いてないですよね?」
……ほら、みんなこの顔になるー。
「結城杏子よっ」
「ああ、結城先生」
私の横で、橙香がぽんと手を打った。うんうんわかっているよ。橙香も知らなったんだね。
「お前ら……」
地を這うような声で結城先生がなにか言いたそうだったので、私、すぐに話を武闘家に振り直した。
「武闘家の名前は?
あと何組?」
「1組だ。
あんたらは?」
「3組、五月女阿梨と蓮見橙香」
「同じく3組、辺見弦」
「オマエには聞いていない」
元魔王まで私たちに続いて自己紹介したのを、武闘家が一気に切り捨てた。
まぁ、自己紹介をこの流れでする元魔王も元魔王だよね。
でも、なんか元魔王、改めて半泣きみたいな顔になった。
てかさ、元魔王、魔王じゃなくて私たちのパーティーの一員になった気になってない?
……いくらなんでも、魔王に仲間になりたそうにこちらを見られても困るわー。
あとがき
ようやく名乗り合いましたw
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます