第23話 3日目の放課後、屋上での決闘5


「私たちにはどうすることもできないんだから、アンタがその魔界の封印方法を見つけなさいよ」

 賢者はそう言い放った。

「余が、か?」

「なに、びっくりしているのよ。私たちには、敵は認識できないんでしょ?

 なら、アンタがやるしかないじゃない」

 うっわ、論破だなー。

 可哀想に、魔王の片鱗を見せたがゆえに追い込まれてやんの。


「ちょっと待て。

 お前たちが余の魔法を封印し、その上ですべてを丸投げするなど、道理が通らぬではないか。

 それなら、余が余の魔法をもって余の世界で戦えば話は済む。お前たちの世界を戦場にすることもない」

 ま、それもわかる。でもなぁ。


「私たちを斬り刻んだあとに焼き尽くすとか言うの、さっき聞いちゃったんだよねぇ。魔法をアンタに戻せるわけないでしょ」

「誘導尋問かよっ!?」

 元魔王の辺見くん、そう叫んだ。

 まぁ、気持ちはわかるよ。うんうん、ホント、わかるよ。私以外の誰かが魔王をイジメているのを見ていると、なんか、ホント、魔王サイドにも共感できるわー。


「封印解いたって、魔素がないから魔法は使えないでしょ。封印解く意味、ないじゃん」

 と、賢者はけんもほろろ。

「いや、攻撃のためとかの、魔素を大量に使う魔法は使えぬ。だが、聞き耳を立て、遠隔視を使い、敵を探るのに魔素はほとんど要らぬ。それすら封じられていたら、余とて打つ手がない」

 うーん、切々と訴えてくるね、元魔王は。


 根気強く交渉を重ねてってやつだろうけど、私からしたら結局選択肢は2つしかない。元魔王に魔法を返して魔王にするか、返さずに元魔王のままにしておくかだ。そうなれば答えは決まってしまうんだよね。

 これは共感とは別の話だよ。


「どうする、勇者?」

 賢者、私にそう聞いてきた。元魔王との交渉に、音を上げたってとこかな。

「……とりあえずさ、フェンスに逆さに喰い込んでいる武闘家を助けてあげない?

 その話はそれからでもよくない?」

「そうだよ。

 さすがに可哀想だよ」

 私は判断を引き伸ばしたくて、とりあえず武闘家をダシにして逃げた。ありがたいことに、橙香が同意してくれたので、逃亡成功だ。


 私たち、武闘家を抱えて屋上の床に横たえた。

 逆さに磔になっていたから、よだれが鼻の脇をとおって、額に達している。これがここに叩きつけられたための出血だとしたら、少しはカッコ良かったんだろうけど、よだれだもんね。私と橙香は海老のように引いていた。

 ヤダ、汚ぁい。ってね。


 でも、賢者はさすがは保健室の先生なだけあって、ポケットティッシュを取り出して顔を拭いてやっていた。でも、拭いたあとのテッシュは、丸めて武闘家のポケットに突っ込んでいたのを私は見逃さなかった。

 ま、屋上にゴミ箱はないもんね。


「しっかりしなさいよ。ほら」

 私、そう言って、制服のスカートの裾を抑えながら、つま先で武闘家の脇腹あたりをちょんちょんと突付く。

 だってさ、倒れていて頭を打った可能性のある人は揺すっちゃいけないんだよね。まぁ、逆さに磔になって放って置かれていた段階でもうアウトだとは思うけれど。

 だからって、触るのも嫌なのに近づいて介抱するのはもっと嫌だし、制服のスカートを下から覗かれるのも嫌だし、嫌と嫌の妥協点がこうなったんだ。


「む、むう」

 武闘家がうめき声を上げた。

 あ、どうやら大丈夫っぽいかな?

 考えてみれば、武闘家なんだから、きっと頑丈な身体で生まれてきたに違いないし。バケツに水汲んできて、ざばーっとぶっかけてもいいかもしれないなー。



あとがき

武闘家、早く気がつかないとなにをされるかわからないぞ!

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