第22話 3日目の放課後、屋上での決闘4
賢者、なんか余裕綽々で元魔王の辺見くんの前に立っている。どうやら、マジで怖くないらしい。
「魔王、アンタの極め技の魔法は、空から星を降らすこと。だけど、それは魔素の消費量からしてここでは使えない。
現実的なところとしては、刃物系、焼き尽くし系の魔法、凍結系の魔法、電撃系の魔法に水系の魔法。このあたりで戦うことになるのよね」
私、「現実的な魔法ってなに?」って思っちゃったわよ。「魔法」と「現実」って単語、やっぱりあんまり相性良くないわー。
「そうだ。そのとおりだ。
星を降らすことはできずとも、我が魔法により貴様らを斬り刻んだ後に焼き尽くしてくれようぞ」
「やっぱり、そんなことを考えていたのね。でもそれ、無理だから」
そう言って、賢者は立てた人差し指を振る。
「防御魔法はろくに使えず、装備すらない中で、なぜそのようなことが言える?」
「例えば私が羽織っているこの白衣だけど、防汚加工、制菌機能、耐薬品耐久性、防炎機能がついている。普通に買えるのよ、この世界では。それに、そう高くはないし。
防刃手袋とか、撥水性作業着とか、フリースの防寒服とか、そんなのも普通にワ=クマンとかユニク□で売っているわよ。前世で苦労して集めた装備なんて、この世界だったら一万円もしないで買える。しかも、性能も前世の装備より良かったり。
どーせ、前世の装備だって、1つですべての機能を持っていたわけじゃない。状況に合わせてとっかえひっかえもしたんだから、今だって同じ。10万もあれば、パーティー全員の防御力を前世と同じにできるわよ」
マジか……。
でも、装備を買うためにバイトするのはやだな。どっかの街路樹にお金がならないかな?
「……防具についてはわかった。
だが、攻撃するための武器も、聖剣タップファーカイト以外はなかろう……」
「いらないでしょ」
賢者の言葉のシンプルさは変わらない。
だけど、次の言葉は物騒この上なかった。
「今の辺見くんの身体にとどまっているアンタなんて、私たち女子3人だけでも金槌で袋叩きにしたら……」
「ちょっと待て!
その絵面がリアルすぎて怖いわ。
余の話はそういうことではない。攻めてくる別世界からの敵は……」
あ、元魔王の辺見くん、マジに焦ってる、焦ってる。
まぁ、女子高生2人と白衣を着た保健室の先生が金槌持って迫ってくる絵面は、ホラー映画以外のなにものでもないもんね。アニメだったら、目が赤く光るところだ。
「だから、その別世界からの敵には武器はいらないでしょ?
魔界への扉が開こうとしていて、開いたら魔の眷属がなだれ込んでくるんでしょ。だけど、この世界と、アンタの魔界で隔てられているさらに深い位置の魔界とは、戦いという形でさえも接することはできないんでしょ。
戦えないのに、武器なんかいる?
瘴気と魔の眷属が流れ込み、それを認識できぬままに人の世は滅びに向かうっていうなら、それを封印する方法があれば良くて、それは武器じゃないわよね」
びしびしと賢者が論破して、元魔王の辺見くんの視線は泳ぎっぱなしになった。
うん、元魔王、詰めが甘い。
負けるべくして負けているわ、アンタ。
賢者って、系列の異なる魔法を自在にこなすから賢者だと思っていたけど、実際賢いんだね。頭脳労働は任せた。
あとがき
保健室の先生の賢者のイメージを頂きました。
花月夜れん@kagetuya_ren さまからです。
感謝なのです。
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